fc2ブログ

タイトル画像

アメリカのアフガン撤退は正しい

2021.08.17(17:33) 860

 今回のこの件で僕が違和感を覚えるのは、「アメリカはアフガンに自由と民主主義を根づかせようとしたが、うまくいかなかった」みたいな論調がかなりあることです。あたかもアメリカが親切で介入し、強権的なタリバンを追い払っていたかのようです。

 前回書いたように、そんな事実は全くないので、アメリカは9.11の報復でアフガン攻撃を行なっただけです。それも、「おまえんところにアルカイダってテロ集団がいるだろ。そいつらを今すぐ出せ!」と高圧的な態度で迫り、相手が「応じられない」と言うと(こういう場合、「はい、わかりました」と言う方がどうかしていますが)、ただちに爆撃に踏み切った。にもかかわらず、ビンラディンはじめアルカイダ幹部は脱出していて、アメリカの目的は果たされなかった(ビンラディンが見つかり、殺されたのはオバマ政権になってから)のですが、タリバン自身はあのテロには何ら関与していなかったし、「どうも正当化根拠が弱すぎるな」というので、「婦女子虐待のクレイジーな原理主義者からアフガン民衆を解放しようとした」みたいな話が付け加えられたのです。

 イラク戦争の真の狙いが石油だったように、こちらの隠れたそれは天然ガスだったという説もありますが、とにかくアメリカはアフガン民衆の苦境に同情して戦争に乗り出したわけではさらさらなかった。当時のブッシュ政権にそんな高尚なメンタリティなどあるわけもなかったので、アフガンでもイラクでも、動機がまともでなかっただけになおさら、自分が持ち出した美辞麗句に縛られ、「自由と民主主義の普及」というタテマエの実現にこれ努めるというポーズを示さざるを得なくなったのです。しかし、アメリカが作った傀儡政権は所詮「理念なき烏合の衆」で、そんなものの実現能力があるわけはなかった。

 かくして、事ここに至ったわけで、

モスクワ共同】ロシア通信は16日、アフガニスタンのガニ大統領が、車4台とヘリコプターに現金を詰め込んで同国を脱出したと伝えた。在アフガニスタンのロシア大使館広報官の話としている。
 車4台が現金でいっぱいになったため、残りをヘリコプターに積み込もうとしたが入りきらず、現金の一部は飛行場に残されていた。
 ガニ氏は15日、妻や側近とともに出国したと報じられている。
 ロシア当局者は、地元ラジオ局に「ガニ大統領が持ち出した金が公金でないことを願う」と話した。(共同通信8/16)


 なんてことになってしまうわけです。政府軍幹部の腐敗はすさまじかったと言われていますが、政府のトップがこれなら、それもむべなるかなで、兵士がそんな連中のために命を賭して戦うわけがない。当然、こんな政府や軍が国民の福祉のために尽力するなんてこともあり得ないわけです。だからタリバンは易々と全土を制圧できた。

 結局アメリカは、ブッシュが始めた愚行のために何千兆ドルものアメリカ人の税金と、数千人の自国兵士の命(負傷者を含めるとその数は2万5千人を超える)を犠牲にすることになったのです。そしてその成果はゼロに等しい。アフガンでは敵やテロリストと誤認されて戦闘機やドローンによって爆殺される民間人が跡を絶たなかったのだから、アフガン国民には感謝されているというわけでも全くない。あれやこれや、これなら昔のタリバン政権の時代の方がずっとマシ、と考える人が増えても不思議ではありません。

 だから、今回の「タリバン復活」劇は、なかば以上必然でしょう。誰にも得られるものはほとんどないのだから、アメリカは予定通り撤退した方がいい。

 中国とロシアは早速タリバン政権容認の態度を示したようです。両国にとってアフガニスタンは地政学上の要衝で、タリバンの強権的な在り方はむしろプーチンや習近平共産党の好みには合うし、自国にテロリストを送り込んでくるような真似さえしなければ、政治経済両面で支援して自陣営に取り込むのが一番という判断なのでしょう。次は「中国、タリバン政権掌握を容認 安定確保を期待」という見出しの共同通信の記事です。

【北京共同】中国外務省の華春瑩報道局長は16日の定例記者会見で、アフガニスタン情勢に関し、反政府武装勢力タリバンが「各党派、民族と団結し、国情に合った政治的枠組みを確立することを望む」と述べた。タリバンによる政権掌握を事実上容認した形だ。
 華氏は、タリバンが国内の安定を確保し「各種のテロや犯罪行為を抑え込むことを期待する」と強調した。「アフガン人民が自身の命運を自ら決める権利を尊重する」と語った。
 内政不干渉の原則を維持し、アフガンと友好関係を続けると説明。平和の実現に向け建設的な役割を果たすとも表明した。


 この華報道局長の「各党派、民族と団結し、国情に合った政治的枠組みを確立することを望む」「各種のテロや犯罪行為を抑え込むことを期待する」「アフガン人民が自身の命運を自ら決める権利を尊重する」といった言葉はどれも尤もなものです。アメリカは「いいところを全部中国にもって行かれた」と思うかもしれませんが、この言葉通りのことが実現すれば、それはアフガン国民にとっても、世界にとっても、望ましいことです。この二十年でタリバンも国際世論から学ぶところはあっただろうから、女性や子供に対する扱いが変われば、前よりはよい治世が期待できるかもしれない。

 タリバンはアメリカが敵視するイランとの関わりも深いし、中国が味方についたとなると厄介なことになると心配する向きもあるでしょうが、何より望ましいのは、かつてのソ連によるアフガン侵攻(1979-1989)以来ずっと混乱が続いてきたあの国の人々に安寧がもたらされることです。米中対立とは別に、両国はアフガン問題では協力して支援してもらいたいもので、そういう態度がアフガンをテロリストの製造工場にしない最良の方法でもあるでしょう(アルカイダのようなテロ集団がアメリカに敵意を募らせたのにも、それ相応の理由があった)。華報道局長の「内政不干渉の原則」は、ウイグル人問題や、香港、台湾問題、シナ海での中国の覇権的行動に、だから皆さんも文句を言わないでねと言っているようにも聞こえますが、それとこれとは別問題です。武漢ウイルス研究所の件も残っている。そちらはそちらとして、中国が疲弊したアフガンに援助をするのはよいことで、アメリカもこれまでの関わり上、ここは共に協力し合うべきでしょう。

 ペシャワール会の中村哲先生は、元が医師なのに、医療で人を助けるのみならず、井戸を掘ったり、江戸時代の古文書で見つけたという日本古来の灌漑方法を使って川から畑に水を引くなど、生活の基盤を作ることが何より大切だということでアフガンで長年努力され、現地の人たちから大きな尊敬と信頼を得ていました。あるドキュメンタリーで、現地の人たち(ちゃんと日当を払っていた)と灌漑工事の最中、突然現れたアメリカ軍の戦闘機から機銃掃射を受け、皆で慌てて逃げるシーンが出ていましたが、それは危険な連中と見なされたからで、そういうことは珍しくなかった由。アメリカの「自由と民主主義の普及」なんて抽象的なお題目は、この人は何も信じていなかったでしょう。武力で平和がもたらされるわけはないこともよく承知していた。アフガンで活動するというのは、いつ誤認攻撃を受けるかわからないので危険この上ないが、映画『花と龍』のモデルとなった玉井金五郎の孫だけあって、ずいぶん肚の据わった人だなと感心させられました(2019年、ジャラーラーバードで車で移動中、何者かの銃撃を受けて死去)。軍事協力して兵を送っても感謝されないが、僕ら日本人は中村さんのような人たちのおかげでアフガンの人たちから好意的に見られているのです。

 何が人々のほんとの助けになるか、テロリストを生み出さないようにするには何が必要か、中村さんたちの活動はそれを考える上で大きなヒントになりそうです。
スポンサーサイト





祝子川通信 Hourigawa Tsushin


<<余命宣告 | ホームへ | ブッシュ・ジュニアがやらかした暴挙のお寒い結末>>
コメント
コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://koledewa.blog57.fc2.com/tb.php/860-50fd63a2
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)