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ブッシュ・ジュニアがやらかした暴挙のお寒い結末

2021.08.16(16:00) 859

アフガン政権崩壊 ガニ大統領「タリバンが勝利」FBで声明

「やっぱりな…」という感じもしますが、この20年、一体アメリカはアフガンとイラク(後者は少し遅れて2003年ですが)で何をやっていたのでしょう? 実に多くの罪もない現地の人たちが犠牲になった。それは9.11テロの犠牲者(当時は6000人と言われたが、実際はその半数)の比ではなかったのですが、アメリカ軍の兵士たちもまた心を病み、これはディヴィッド・フィンケルの『帰還兵はなぜ自殺するのか』(古屋美登里訳 亜紀書房 2015)という本の帯に書かれた文句ですが、「イラク・アフガン戦争から生還した兵士200万のうち、50万人が精神的な傷害を負い、毎年250人が自殺する」と言われ、いつぞや何かで見ましたが、戦死者数より帰還後の自殺者数の方が多くなってしまっているのです。トラウマを抱えた帰還兵士による異常な殺人事件なども増えている。

 アメリカによるアフガン戦争は、元々国際法違反の戦争でした。ブッシュはテロを起こしたアルカイダのメンバーたちを当時アフガンを実効支配していたタリバンがかくまっているというので、いきなり攻撃したのですが、タリバンが9.11テロの首謀者だったとか共謀者だったというならともかく、アルカイダとタリバンは別ものです。引き渡せと交渉して、いや、俺たちはアルカイダの行為を支持する、と言って頑として拒んだというのならともかく、いきなりおまえらも同類だと言って大規模な軍事攻撃に入ったのですから(リメンバー・パールハーバーなんて言われましたが、真珠湾攻撃は日本政府と軍によって“正式に”なされたもので、国家の関与が明白なそれと、テロ組織によるこの種の事件では性質が異なります)。

 当時僕はあの件に激しく憤り、ちょうどその頃、最初の訳書『二つの世界を生きて』を出す直前だったので、「アメリカ・テロ事件を受けての追記」というのを書き加えました。精神科医の自伝にそんなものは関係なさそうですが、ガーダムが大きな関心を寄せていた「悪」の見地からしても大いにかかわりがあるとこじつけて、それも入れてもらったのです。次はその一節です。

 タリバン政府が崩壊するのは時間の問題で、今これを書いている時点でタリバンは首都カブールを撤退し、かねて戦火を交えていた北部同盟が代わってそこに入ったと伝えられている。マスコミは「ポスト・タリバン」情勢についてさかんに論じている。新政府の発足は様々な思惑が入り混じった多難なものになるだろうと予想されているが、とにかくテロ事件の余波で一国の政権が覆り、世界最大の大国アメリカは「敵対勢力」の掃討にまた一つ成功したわけである。しかし、事はそれでは片づかない。憎悪によって憎悪に報いたアメリカは、今も見たように新たな憎悪の種をまた一つ蒔いたのだ。いずれそれはかたちをとって現われてこよう。一つ確実に言えることは、近年とくに顕著になっているアメリカのエゴイスティックな国際的対応(環境問題含む)が改められず、「合法」的な外観をとりつつ、強大な軍事・経済力を背景に力でゴリ押しするようなことを続けていれば、アメリカに対する隠れた憎悪と敵意は強まりこそすれ弱まることはないだろうということである。そうなれば一つのテロ組織を潰しても、また別のテロ組織が出現する。シンパシーがあるかぎり、テロ組織は生き延びる。すなわち、類似の「災難」はまたアメリカを襲いうる。厳密にはそれは「災難」ではなく、半ばは自らまいた種なのだ。

 当時ブッシュはさかんに「テロとの戦い」を言い立てましたが、アメリカ自身がCIAなどを介して、中南米などの自分に親和的でない民主派政権を倒すための「テロ支援」をしていたのは周知の事実で、アルカイダ首領のビンラディン自身、元はアメリカの支援対象だったことがあるのは皮肉な話でした。また、何の罪もない自分の両親や家族をアメリカの無差別爆撃などによって殺された青少年がアメリカに強い憎悪の念を抱き、テロリスト集団に加入したり、シンパになったりするのも容易に想像できることで、自らの独善的な無法行為によってかえって潜在的テロリストを増やしてしまうことになるのです。

 話を戻して、米軍撤退と共にタリバンは再び首都カブールに戻ってきた。その驚くべき都市奪還のスピードは、アメリカが作った傀儡政権の軍に戦う気がほとんど全くなかったことと、民衆の支持が政府になかったことをよく示しています。タリバンは西側報道では男女差別とアナクロニズムの権化みたいに言われていますが、それはおそらくは偏った見方で、人々が腐敗しきった現政府よりはタリバンの方がずっと忍びやすいと思っていることを示唆しています。

 イラク戦争の場合には、僕はあのとき心底呆れたのですが、大義名分などというものは皆無でした。イラクのフセインとアルカイダの関係などは見つかっていなかったので、それを無理に正当化するために「大量兵器疑惑」なんてものをでっち上げた(世界最大の大量破壊兵器保有国がそんなことを言うのは笑止ですが、自分は正気だが、彼らは頭がイカれているから危険だという理屈なのでしょう)のですが、僕自身は最後まであれは嘘っぱちだろうと思っていました。恥じるところのないブッシュ政権は、自ら砂漠の何かの建物に生物兵器でも持ち込んで、「あった!」とやるのではないかと思っていましたが、生物兵器だと後で分析されてその由来がアメリカ産とわかってしまうからそれは思いとどまったらしく、「ガセネタに騙された」ということで幕引きを図ったのです。フセインという独裁者はむろん、国内でも評判は悪かった。しかし、アメリカがもたらした大混乱は、「当時は一人のフセインがいただけだが、今は千人のフセインがいる」とか、「かつてはフセインの悪口を言う以外の自由は何でもあったが、今はフセインの悪口を言う以外の自由は何もない」と言われるような惨状をもたらしたのです。そして、アフガンでも事情は同じですが、大義名分なき戦争の現実に気づいたアメリカ軍兵士たちは、爆弾や襲撃の恐怖におびえるだけでなく、自らが関与する戦争に対する深い疑念ゆえになおさら心を蝕まれていったのです。

 イラク戦争が始まったとき、わが国の小泉政権はいち早く支持を表明し、「いくらなんでもこれは正当化は無理だな」ということで距離を取ろうとしていた多くの西側諸国の首脳を驚かせました。そして自衛隊をイラクの「非戦闘地域」に派遣した。野党に突っ込まれた小泉首相(当時)は、「アメリカは日本への攻撃は自国に対する攻撃とみなすと言っている。他にそんなこと言ってくれる国がどこにありますか!」と奇妙な反論をした。そこまでアメリカが信義に厚いとは思えないが、仮にそうだったとしても、「A君はボクの頼れる友達だ。だからそれに報いるためにもA君が強盗するときは支持して、手伝わなければならないんだ」と言うのと同じです。友達ならそれはまずいよと耳に痛い助言もすべきだという発想にはならない。だから、「ブッシュのポチ」と呼ばれたのです。

 リベラル派のオバマ(ドローンで最も多くの民間人を殺した大統領として歴史に名を残した男にノーベル平和賞というのは笑えますが)には歴史修正主義者とみなされて嫌われていたものの、安倍はトランプには大いに気に入られて、「トランプのポチ」になったし、日本政府はずっとポチ路線です。IOCのバッハにすら物申せないガースーはなおさらでしょうが、日本政府が追随してやまないアメリカは、イラクでもアフガンでも、無用な混乱をひき起こし、罪なき大量の人々を死傷させ、生活を破壊し、あるいは難民化させた。イラクは今も混乱し、疲弊したままですが、アフガンは元通りタリバン支配下に戻りつつあるのです。一体これは何のための騒ぎだったのか?

 ソ連が崩壊した後、アメリカは一時一人勝ち状態になりました。そして独善性を強め、横暴さもさらに目立つようになって、国内でも不平等が一層拡大して活力を失い、衰退ぶりが目立つようになった。今は中国が台頭して、アメリカに劣らぬ勝手なふるまいをしてあちこちで敵視を招き、次第に包囲網が形成されるようになった。かつての日本も、日清、日露、第一次大戦と無敗を誇り、増長したまま日中戦争に乗り出して、引きどころを知らず、判断ミスの連発の中、気づいたら周りは敵だらけになっていて、自滅に向かったのですが、人間は、国家は、愚かなものだなとあらためて痛感させられます。

 愚かな権力の暴走を止められないと、罪なき多くの人々が塗炭の苦しみを味わうことになるのです。戦争は必要悪だと考えている人たちは、観念的にならず、おぞましい戦場に送られる兵士や、空爆などの犠牲になって死ぬ大量の民間人の存在、その苦しい内面を想像する能力だけは決して失わないようにすべきでしょう。

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