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中国の常軌を逸した受験戦争と寝そべり族

2021.07.28(16:37) 852

 この「寝そべり族」というのは興味深い現象で、いつかそれについて書きたいと思っていたのですが、この王青さんの記事は、かの国の熾烈な受験戦争についても詳しい記述があって、考えさせられる文章です。

中国の過酷な受験戦争を勝ち抜いた若者が「寝そべり族」になってしまう理由

「このような背景から、高校の3年間は皆、命懸けで勉強する」とあるのは誇張ではなさそうで、

 競争が激化する中、統一試験で好成績をたたき出すことに特化した高校もある。河北省衡水市にある衡水中学(高校)は、「高考工場」「受験訓練所」「鬼の強制収容所」などと呼ばれ、全寮制でスパルタ教育を行い、高い進学率を実現している。高校3年間で休日はほぼなし。毎日のスケジュールは秒刻みで、忙しすぎて「歩くことが存在しない」といわれるほど。生徒は校内での移動でも常に走っているという。教室内に監視カメラがいくつも設置され、全ての生徒が学校の監視下にある。

 この学校にまつわるさまざまな伝説の中で、一番有名なのは、全校生徒約8000人が毎朝5時半に一斉にグラウンドをランニングすることだ。冬だとまだ薄暗い中で、「超越自我」「挑戦極限」など四文字のスローガンの号令をかけながら、足並みをそろえて前列にぴったりとくっついて走る風景は軍隊そのものだ。もし一人でも倒れたら、ドミノ倒しになる状況で倒れないように走り続けることには、集中力と緊張感を養う目的があるのだという。

 そのほか、自習時には眠気を払うため立ったまま勉強したり、服の着脱時間を省くため寝るときも着衣のままの人もいたりするなど、伝説の枚挙にいとまがない。そして、成績が悪かったら、教師から人格侮辱な言葉でののしられたり、体罰が行われたりすることも日常茶飯事だという。卒業生は「まるで地獄だった」と口をそろえる。人間の極限を試すような環境に耐えられず、退学する生徒や、体を壊す生徒が後を絶たない。

 ただ、全国の重点大学への合格率は毎年9割以上。清華大学や北京大学などの超一流大学の進学生徒数は数百人に上り、合格者数全国1位の実績を誇り、「奇跡をつくる学校」と称えられている。ここでの生活を耐えれば後の人生は「楽勝」だと、多くの親が心を鬼にして子どもを送り込む。現在、中国では、「衡水高校」をまねした学校が地方で続出している。


 中国式監視社会が学校教育にまで及んでいるということで、戦慄させられますが、韓国なども受験戦争はすさまじく、前にもここで紹介したことのある金敬哲さんの『韓国 行き過ぎた資本主義』に描かれた病的としか言いようのない受験実態や、Netflix のドラマ『SKYキャッスル』(誇張だとしか思えないような話にさえ元ネタがある!)に見られるような、親がかり管理の凄さや、受験コーディネーターなるものの暗躍など、こういうのは東アジア的稲作文化によって育まれた集団的横並び競争の弊害が行くところまで行った結果なのでしょう。日本の場合には、第二次ベビーブーマーが受験年齢に差しかかった頃はかなり凄まじかった(僕は塾の受験現場でそれを見ていた)ものですが、今はそれと較べるとユルユルになっていて、大学生の就職率も高くなっているので、子供たちはそこまでしんどい思いをしなくて済むのは幸いですが、それでも中学受験などは過熱したままらしいので、やはり同じ稲作文化的メンタリティです。毎年、東大・京大や、国公立医学部に何人入ったかという高校別ランキングが発表されて、週刊誌などはそれを入れると売り上げが倍増するというので、欠かさず掲載する。何度も同じランキングが「速報版」「現浪別」「確定版」というふうにして出て、最後は主要な大学全部をまとめたものが「特別愛蔵版」として出るというしつこさです。

 中国も、韓国の「修能試験」と同じ(というか、韓国がそれを真似た?)で、

 6月下旬、中国で全国統一大学入試(通称「高考」)の成績が発表された。この試験は、中国の若者の未来を大きく左右する。中国の多くの大学では、基本的に大学ごとの試験は行われず、この1発勝負で合否が決まるからだ。

 ゆえに、高い点数を獲得し、家族と抱き合ってうれし涙を流す人もいれば、普段は成績が良かったのに今回に限って失敗し、一人で部屋に閉じこもって泣いている人も……。まるで天国と地獄。試験後になると、SNSではそうしたいろいろな人間模様が話題となる。今年もまた、12年間命懸けで勉強してきた結果が発表され、数多くの若者の運命が分かれたといっても過言ではない。


 ということで、日本でいえばセンター試験(無意味ないじり方をして「共通テスト」なるものに変わりましたが)のような統一試験ですべてが決まってしまうという話です(韓国の場合は「随時」と呼ばれる選考過程が不透明な上に、富裕層に有利な推薦入試の合格者の方が多いそうですが)。日本の場合には二次の大学別の試験があり、難関大はすべてそちらの比重の方が高いので、勝負はそちらで決まるのですが、何にしても難儀なことです。「12年間命懸けで」文字どおり寝る間も惜しんで勉強して、失敗したら「人生終わった」みたいになり、うまく行っても、払った代償が大きすぎる。そういうのに疑問を感じないような連中ばかりがエリートになって、まともな社会が作れるのかは大いに疑問です。

 ついでに脱線させてもらうと、僕は11年前の6月に「教育という名の児童虐待:延岡の普通科高校の場合」という記事をここに書き、無用な朝課外に大量の宿題、非合理な校則、おかしな懲罰システムなど、生徒たちは虐待を受けているに等しいと述べたのですが、上の記事のような、「全校生徒約8000人が毎朝5時半に一斉にグラウンドをランニングする」なんてことまではやっていないので、それを「もし一人でも倒れたら、ドミノ倒しになる状況で倒れないように走り続けることには、集中力と緊張感を養う目的がある」なんて正当化するこういう学校と比較するなら、全然問題視するには足りない、ということになるでしょう。“中国基準”に照らすなら、こうした度の過ぎた管理と強制は何ら異常とは見なされない(むしろ締め付けが足りないくらい?)のです。

 今の日本でも「受験は団体戦」と称して、センター試験(共通テスト)直前に3年生全員を体育館に集めて、「総決起集会」なるものを開き、「ガンバロー!」と誰かが音頭を取って、拳を突き上げてそれに一斉唱和するなんて「おまえら、正気か?」と言いたくなるようなことをやっている学校が多数あるようですが、こういうのも東アジア的見地からすれば、いたって“正しい”ことなのです。教師たちから見ると、こういう光景は申し分なく美しい。西洋かぶれの個人主義的なおまえの方が異常なのだと嘲られそうです。

 僕にはそういう育ち方をした人間が自由で自立した思考のできる人間、自分の目で物を見、自分の頭で考えられる人間になることはほぼ無理だろうと思えるのですが、教育関係者たちはそういう重要な問題については何も配慮していないようです。というのも、教師自身がそんなことをしたことがないからで、そもそも体制内思考しかできない。これは中国、韓国、日本で共通したことなのかなと思います。そうなると社会の改革はアウトサイダーたちに期待するしかなくなるが、中国は共産党が支配しているし、韓国社会は財閥にスポイルされているし、日本の場合も階級ができてそれが固定化しつつあるので、それはかつてないほど難しくなっている。

「寝そべり族」はそうした中で登場した中国若者のレジスタンスです。別に共産党独裁に反対するパフォーマンスをやっているわけでもないので、政治犯として逮捕することもできず、中国政府にとってはやりにくい相手でしょう。

 寝そべり主義」とは、簡潔に説明すれば“六不主義”である。「家を買わない」「車を買わない」「結婚しない」「子どもを作らない」「消費しない」「頑張らない」という六つを“しない”こと。そして、「誰にも迷惑をかけない、最低限の生活をする」ことを指す。

 受験戦争に勝つため、全ての時間を勉強に費やし、歯を食いしばって苦しんだ。大学に無事に入り、都会で働きたい夢も実現した。しかし、996(朝9時から夜9時まで週6日間勤務)や007(午前0時から深夜0時まで週7日間勤務)といわれる過酷な労働や高圧的な職場でいくら頑張っても、都会で家を買うこともできない。1カ月の収入は、大半が家賃で消えてしまう。およそ10年間で、中国の不動産価格は10~20倍に高騰したからだ。物価も年々上がり、生活することすら容易ではなくなった。これまで夢を持ってひたすら努力してきたが、結局、日々過酷な環境が続いて救われることがない。将来は見えなくなった。だったら「もういいよ、最低限な生存状態を維持すればいいだろう」と投げやりのような気持ちになっても無理はない。


 中国の「高度経済成長」は、日本のそれと較べて賞味期限が短かった。また、日本の場合、一時的には全階層にわたって所得が向上し、一億総中流と呼ばれるかつてないほどの平等化が実現した。それが止まってから、行き場のなくなった資本が不動産に流入し、バブル経済→崩壊となって、その後「失われた30年」になったのですが、中国では逆に経済成長は格差の拡大を伴い、不動産価格の暴騰は賃金上昇率をはるかに超えてしまった。同時に、高齢化のスピードも猛烈なので、今後税金、社会保険料などの負担も上がる一方となる(一人っ子政策をやめたが、出生率は上がっていない。子供一人を育てるのでもこういう競争社会では大変なのだから、それはあたりまえの話です)。

 韓国でも、文政権になってから不動産価格が急騰し、ほぼ2倍になってしまった(韓国らしいのは、政府幹部にそれを見込んで大儲けしようとした浅ましい連中が続出したことです)。財閥系企業と中小零細企業の賃金・待遇の格差は相変わらずすさまじい。おまけに、中国と同じ不公平な縁故社会、コネ社会です。年金制度は、日本のそれもひどいものですが、韓国の将来見通しはさらに暗く、若者は老人層に貢がされているとしか思えない。韓国の政治家は歪んだ歴史教育をベースに、伝統的に「困ったときの反日頼み」でやってきたが、その騙しもいい加減利かなくなってきている。あれやこれやで、出生率は0.8台の世界最低になり、今後はもっと落ち込むと予想されているのです。

 要するに、一部の甘い汁を吸える特権層を別とすれば、多くの若者にとっては「ヘル朝鮮」、「ヘル・チャイナ」になりつつあるということです。早い段階から遊ぶ間もなくお勉強、お勉強と尻を叩かれてきた結果がこれ。その絶望感には凄まじいものがあるのでしょう。

 記事はさらにこう続きます。

 もっとも、大学にも行けない人たちの環境は、もっと過酷だ。労働者として働くが、低賃金に加え、職業安定の保障もなく、使い捨てのように扱われる人も少なくない。

 先日、中国にいる知人から、「これ見た?」とある動画のリンクが送られてきた。その動画は、2018年にNHKが放送したドキュメンタリー「三和人材市場~中国・日給1500円の若者たち~」の中国語字幕付きのものだった。「今、中国ですごく拡散されている。これまでこんな番組があるとは知らなかった」と友人は言う。

 番組では、中国の深セン郊外、巨大な就職斡旋場「三和人材市場」にいるたくさんの日雇い労働者の若者の現実が映し出されている。1日働いたら、3日休み。5元(約90円)のラーメンを食べて、野宿する生活を送る。かつては将来に希望を持っていたが結局挫折し、三和地区に集まってきた人がほとんどだ。


 これはかつての東京の山谷や、大坂のあいりん地区のそれよりももっとひどい。岡林信康の『山谷ブルース』を中国語の字幕付きで流せば、大ヒットしそうです。そんな日雇い労働者の生活が多くの若者の共感を呼び、「中国では彼らは『三和大神』(三和ゴッド)と呼ばれている」というのだから、いかに今の中国が深刻な矛盾を抱えているかがわかるのです。習近平の「中国夢」は内側から崩壊する危険にさらされている。中国の覇権主義的な行動は、それによって愛国心に訴え、求心力を上げて内部のお粗末から目をそらさせようというところも明らかにあるのでしょう。オリンピックの強行開催で愛国心を高め、内政のひどいお粗末を忘れさせようという菅自民政府と似たようなさもしさなのです。

 要するに、日本も中国も、韓国も、何か根本的に間違ったところがある。それは何なのかということを根本的に考え、そこから政治も改めようとしないかぎり、明るい未来などというものはあり得ないでしょう。問題は、いずこの政治家たちもそれを理解する能力はなさそうだということです。この「根本的に間違ったところ」というのは何なのか? 僕は自分なりの回答(そこまで遡るのかと笑われるかもしれない)をもっていますが、それは一人一人が考えるべきことでしょう。

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