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元警察官僚が学術会議新会員任命拒否の主役を演じたことの意味

2020.10.13(16:20) 763

 怪談の季節はすでに過ぎましたが、この分では戦前の特高警察の復活もそう遠くはないだろうと思わせるようなぞっとするニュースでした。すでにいくつものメディアが報じていますが、次のものは「官房副長官が首相に任命除外事前報告 日本学術会議」という見出しの、日刊スポーツの記事(10/12)です。

 日本学術会議の会員任命拒否をめぐり、杉田和博官房副長官が菅義偉首相に対し、内閣府の提案に基づき、任命できない人が複数いると口頭で報告していたことが12日、分かった。政府関係者が明らかにした。

 推薦された105人のうち、6人が任命されなかった。関係者によると、杉田氏は具体的な人数は事前に首相に報告しなかったが、決裁時には口頭で任命されない6人について説明し、首相も理解を示したという。首相はこれまで「学問の自由は関係ない」としながらも、任命しなかった理由は明確にしておらず、今後説明責任が問われる。

 安倍政権で文部科学事務次官を務めた前川喜平氏は「杉田氏が身辺調査を指示し、首相と相談して6人除外を決め、内閣府に起案させたのではないか」と指摘した。

 一方、政府は12日、首相が人事を決裁した際の文書に会議側が推薦した105人全員の名簿が添付されていたと明かした。首相は9日のインタビューで「推薦段階の(105人の)名簿は見ていない」と明言しており、説明が矛盾する。加藤勝信官房長官は会見で、名簿は「参考資料として添付」され、首相は「詳しくは見ていなかった」と苦しい釈明をした。共産党の小池晃書記局長は「菅氏の周りがうその上塗りをしている」と非難。野党は首相の発言の矛盾を追及する。


 毎日新聞などもほぼ同じですが、この記事によれば、杉田和博官房副長官が実質的にこの件を仕切ったと解釈できます。この御仁は元警察官僚で、1941年生まれという大変なじさま(当年79歳)です。ウィキペディアによれば、

 警察ではほぼ一貫して警備・公安畑を歩み、警備局長を経て内閣官房にて内閣情報調査室長、内閣情報官、内閣危機管理監として政権中枢で公安と危機管理を担った。2004年に退官。2012年12月26日、第2次安倍内閣において内閣官房副長官に就任

 とあって、安倍政権時と同じポストに就いていることからしても、「アベ政治の承継」のシンボル的存在です。それが実質上、あの6人の学者の排除を決めたのです。菅総理は「見ていない」と言ったが、「決裁時には口頭で任命されない6人について説明し、首相も理解を示した」「名簿は『参考資料として添付』され」ていたというのだから、それは通用しない言い訳だということになります。

 次は時事通信の「菅首相、『6人排除』事前に把握 杉田副長官が判断関与―学術会議問題」という見出しの記事(10/12)の1節です。

 今回の人事を首相が最終的に決裁したのは9月28日。関係者によると、政府の事務方トップである杉田副長官が首相の決裁前に推薦リストから外す6人を選別。報告を受けた首相も名前を確認した。首相は105人の一覧表そのものは見ていないものの、排除に対する「首相の考えは固かった」という。

 この杉田副長官はこれまでの経歴からしても、公安警察の大ボスで、それを自分の手足のように使って会員候補者の「身元調べ」をしたのでしょう。学問的業績がどうのというようなことは彼らにわかるわけはないから、それはもっぱら「政権に対してどういう政治姿勢をとってきたか」という点に向けられたもので、もう一つ公安警察の恐ろしいところは、低級週刊誌並に私生活の細かいところまで調べて、場合によってはそれをマスコミにリーク(むろん、正体は明かさず)して信用を棄損し、邪魔な人間を失脚させることまで目論むことです(冒頭記事にも出てくる前文科省事務次官・前川喜平氏の「風俗通いスキャンダル」なども、完全な失敗に終わったとはいえ、ほぼ間違いなく彼らのしわざだったでしょう)。だから、その名簿に載った人たちは、私生活面まで細かく調べられていると思った方がいい。

 前にも書いたように、この問題に対する世論の反応は概して鈍く、個別の質問では任命拒否が「不適切」という意見は過半数を超えているものの、支持派も4分の1近くいて、全体として菅政権の支持率は70%を超えるという不可解な結果になっている(10/5付JNN世論調査についての記事)ようですが、問題の深刻さを理解していない人が多いからこういうことになってしまうのでしょう。昔から公安警察はずっとそういうことをしてきたのですが、その大ボスが政権の中枢にいて、重要な機関の人選に直接タッチし、首相の任命権を代行する(今回の場合、実質的にそうです)ようなことはしばらく前まではなかった。ましてや学術会議の場合、その首相の任命権は形式的なもののはずで、またそうあるべき十分な理由があるのに、そんなところにまで首を突っ込み出したのです。

 この「任命権は形式的なものであるべき」だという点についてはすでに何度も触れましたが、それでも納得できないと言う人たちは次の記事をご覧ください。条文まで出した、ずいぶん周到な議論です。

学術会議問題、菅内閣の任命拒否は「制度論」で見ればおかしい理由

 僕が思わず笑ってしまったのは、筆者の室伏謙一氏を検索しようとしたら、「室伏謙一 左翼」というワードが一緒に出てきたことです。こういうのはネトウヨたちが気に入らないということでおかしな中傷文を書いたりしているからでしょう。しかし、前にも書きましたが、こういう問題に左翼も右翼もないので、法と良識に照らして正しいかどうかなのです。今回のこれは、どう見てもまともな政府がやることではない。

 そして問題なのは、その選別を公安畑を歩いてきた元警察官僚の79歳の老人が中心になってやったということです。実質的な選別権がないものにまで嘴を入れてこういうことをやらかすとすれば、ふつうに任命権のある機関のメンバー選出ではなおさら、「思想・信条による差別」は当然視されているのでしょう。

 その方面のことをよく知らない人のためにかんたんに説明しておくと、「特高」というのは「特別高等警察」のことで、最近またリバイバルして多くの読者を獲得している『人生論ノート』や、『パスカルに於ける人間の研究』、デカルトの『省察』のすぐれた訳などで有名な哲学者の三木清などもこれによって投獄されて獄中死した(そうでなければ戦後どれほど活躍してくれたことか)のですが、「国体護持のために無政府主義者・共産主義者・社会主義者、および国家の存在を否認する者や過激な国家主義者を査察・内偵し、取り締まることを目的とした日本の秘密警察」で、「第二次世界大戦後の1945年に連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の指示により廃止された」のですが、その「国家組織の根本を危うくする行為を除去するための警察作用」の部分は公安警察に受け継がれ、今に至っているのです(カッコ内はウィキペディアからの引用)。

 戦前戦中、この特高が社会の恐怖と閉塞感をどれほど強めたかは有名ですが、安倍政権以来、公安警察上がりの杉田のじさまのような人が政権中枢で重要な地位を占め、今回の学術会議新会員の人選でも、中心的な役割を果たしたということなのです。菅総理はそうするよう指示していたと見られるので、全くもって危ない政権です。

 それにしても、一体何が「拒否」の理由なのか? 今回の6人の学者のうちでおそらく一番一般的な知名度のある人は『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』や『戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗』(共に朝日出版社)がベストセラーになった加藤陽子・東大教授でしょう。これらはイデオロギー的な硬直さを感じさせないもので、だから多くの読者を得たのですが、ウィキペディアを見ると「新左翼」だと批判する人がかなりいるようで、

・2014年、立憲デモクラシーの会の呼びかけ人に名を連ねた。
・特定秘密保護法に反対する学者の会に参加。


 といったところが、公安的見地からすると許しがたいもので、「国家組織の根本を危うくする行為」と認定されたのかもしれません。一般的な知名度が高いというのも好ましくないところで、東大にあいつをクビにしろとは今の社会の雰囲気ではまだ言えない(大変な騒ぎになってしまう)が、新たに日本学術会議会員という栄誉を与えることは何としても避けなければならないと、菅政権は考えたということなのかもしれません。何とも陰湿でキンタマの小さい話ですが、公安警察が政権中枢まで入り込むと、こういうことになるのです。

 こういうのを黙って見過ごしているとこの先どうなるかわかったものではないと僕は思うのですが、コロナ不況の折柄、そんな些末なことはどうでもよろしいと多くの国民が考えているとしたら、僕にはその方がもっとこわいと感じられるのですが、どんなものでしょう? 政府が任命する各種組織の人選には、全部公安のチェックが入るのです。今回の学術会議の任命拒否を見ても、その選別基準は偏狭きわまりないものなのがわかりますが、思想統制や恐怖政治というのはこういうかたちで始まるのです。それで活力ある社会になると思っている人がもしいたとすれば、それはずいぶんとお幸せな人であると、僕は思います。

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