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「脱原発」を妨げるもの

2011.04.27(01:05) 76

 第一次産業が衰退し、企業誘致も見込めず、どんどん過疎化が進んでゆく地方の貧しい海辺の町に、「こういう手がありますが、どうでっか?」と旦那顔してやってくるのが、独占企業の大電力会社のようです。自治体は税収が落ち込んで赤字がかさむばかりで、サラ金の“多重債務”と似た状態になっている。そこに「目もくらむばかりの」おいしい話を提示されるのです。

 いくらか品位には欠けるが、その不遜な態度と金目のかかった服装からして一目で金満家とわかる旦那は、次のような説明を始める。

「いわゆる『電源三法交付金』なるものがございましてね。電源開発促進税とか、電源開発対策特別会計、施設周辺整備費といった名目で、地元の自治体に手厚く支払われてきたものです。その後も法改正が行われまして、今は『電源立地地域対策交付金』という制度ができ、何ですな、こう申してよろしければ、使い勝手もたいへんよろしくなったという次第です。むろん、これらの交付金は国庫から出されるものですから、取りっぱぐれというものがありません。原発が立てば、それとは別に莫大な固定資産税が自治体に入るのは、申すまでもないことです。それにまた、原発の場合には、とくに手厚いと申しましょうか、『核燃料税』というのまでございましてね。これだけでも県単位では毎年何十億という額になるのですよ」
「しかし、原発というのは危険ではありませんか? 住民の同意が得られるかどうかが、私どもとしては心配なんですが…」
 やせた、作業着姿の自治体関係者はおずおずと答える。
「何をおっしゃいますか! すべていいことづくめです。大体、原発が危険だなんて、左翼崩れのおかしな連中が根拠もなく言いふらしているだけの話で、こんなクリーンで安全な設備は他にないほどです。それはたしかに、ごくごく稀に小さな事故(誤解を招くので私どもは「事象」と呼んでおりますが)が起きることはありますが、わが国の最先端の技術と、何重にもなった安全対策が施されているわけですから、外部に放射能が漏れるなんてことは、万が一にもありえないのです」
「しかし、チェルノブイリとか、スリーマイル島の事故なんかがありましたが…」
「ああ、そこがよくおわかりではないのですよ。ああいう毛唐、失礼、外国人のお粗末な技術や管理とは、わが国の場合、レベルが全く違うのです!」
「でも、東海村でも事故があったように記憶しているのですが…」
「あんなものは、千年に一度起きるかどうかというミスで、しかも、地域住民が大勢被害を受けたとか、そういう話では全くないわけです。事を針小棒大に考えることはよろしくありません。失礼ながら、あなたはこういう貧しい田舎の自治体で長く働いておられるために、考え方がいつのまにかネガティブになってしまっているのです。必要なのはプラス思考ですよ! バラ色の未来を想像しましょう! あなた方の給料、ボーナスは上がり、退職金も安泰です。町の道路は隅々まできれいに舗装され、体育館、美術館、病院、福祉・娯楽施設、多目的ホール、サッカー場などが次々建設され、雇用の場も新たに生まれ、若者が再び町に戻ってきて、賑わいが回復され、今みたいに年寄りばかりではなくて、あちこちで子供たちの笑いさざめく声が聞こえるようになるのです。公共事業費の削減で青息吐息の町の土建業者たちも息を吹き返して、商店街も活気を取り戻し、すべてはいい方向に回り始めるのです」
「しかし、ウチは漁業の町でもあるので、それが大打撃を受けませんか?」
「心配ご無用! いずれお話しするつもりでいたのですが、そちらには文句がないだけの補償金がただちに支払われるのです(気前よく、前払いしたりするほどです!)。たしかに漁民は減るでしょうが、それは漁業ができなくなるからではなくて(そんなことを言う愚かな輩もいますが)、危険な海で働くよりクリーンな原発関連施設で働きたいという希望者が多いからです。補償金で新居を建設し、子供の教育費をプールし、さらに安全でクリーンな新しい職場で働ける。漁業を続けたいという人たちにはこの他にも協力金や振興費が支払われるわけで、誰も損はしない。実にいいことづくめではありませんか?」

 …というような「説得」が実際に行われているのかどうかは知りませんが、とにかく原発誘致によってもたらされる“原発マネー”は莫大な額にのぼるようで、それによって自治体の財政状況は一気に好転し、長期的に見てどうかはともかく、短期的には住民たちもそのおこぼれに与かることができる。2号機、3号機というふうに、同じところに次々原発が建設されるのは、一定期間たつと自治体に入ってくるお金が減り、原発マネーであれこれ箱モノを作りすぎた関係で、その維持費も大きな負担になるので、新たな交付金だの固定資産税だのを呼び込むためにそうせざるを得なくなるのだ、という指摘もあります。

 その点、原発誘致は「麻薬」に似たところがありますが、僕は別にこれを皮肉で言っているのではありません。大都市への人口集中が進み、地方では働ける場が減っているので若者は戻らず、老人の姿ばかりが目立つようになる、というのは、多かれ少なかれ全国共通の現象だからです。地方は交通の便の悪い、奥まった所から順々に人の姿が消えつつあるので、昔はかなりの賑わいがあった地方都市でも、衰退は著しい。そういうところに原発の誘致話が持ち込まれると、動揺するのはよくわかるのです。苦しい財政下、喉から手が出るほど税収・補助金がほしい自治体、少しでも安定した働き口がほしい住民、原発関連予算で、町のインフラ整備までやってくれるとなると、なおさらでしょう。「地域振興」を叫びながら具体的な「振興」策を見つけられないままの地方議会の議員たちも、国と電力会社の甘い言葉についつい乗せられる(合法的な様々な名目で、電力会社はそちらにも媚薬を利かせているのでしょうが)のです。

 それに抵抗するのは、かなり難しい。今回の福島原発の事故で、それが地域にどれほど大きく深刻なリスクを呼び込むものであるか、誰もが思い知らされたわけですが、「原発に頼らない町づくり」を提唱する人たちが少数派にならざるを得なかったのは、原発マネーほど“即効性”があって巨額の金銭的見返りをもたらす代案など、出し得ないからです。

 しかし、それで「地域振興」が果たされるかどうかは、事故のリスクを除外しても疑わしいわけで、「依存は自立を妨げる」という心理学の基本法則は、ここにも当てはまるのではないかと思われます。巨大利権は様々な癒着や不正を生み出すだけでなく、それに依存する人たちの怠惰をも結果するからです。産業振興を真剣に考えたり、まともな企業誘致のために知恵をしぼるということもしなくなる。大体、危険な原発の近くに工場を作る会社など存在しないでしょう。原発に予算の多くを依存するようになった自治体は、それを維持するために電力会社の言いなりになり、直接間接その恩恵に与かっている地元民も原発増設の決定に無言で従わざるを得ない、という構図ができてしまいます。

 今回の福島原発の事故を受けて、海外では「脱原発」の動きが加速化しているようですが、「妄言製造機」の異名をとる石原東京都知事(他のタマが悪すぎたので、不幸にして再選されてしまいました)が「そんなことはできっこない」と放言しているように、今の日本は悲惨な事故の当事国であるにもかかわらず、動きはかなり鈍いように思われます。原発反対のデモは各地で起きているにもかかわらず、テレビや新聞はなぜかほとんどそれを報道しないから、よけいにそんな印象が強くなるのですが、もう一つは今述べた問題、「原発に依存しすぎた自治体」の問題があって、石原知事がそんなことを言うのも、そのあたりを見透かしているからでしょう。「安全」はもとより、「安定した電力供給に原発は不可欠」というのも嘘だったというのは、広く国民の知るところとなりましたが、原発がげんにある自治体にとっては、「予算維持のために原発は不可欠」というのは、多かれ少なかれ真実であるようだからです。

 このあたりの問題をどうするか? この際だから、原発を今後どうするかについて国民投票を行うべきだという意見があって、僕もそれには賛成ですが、その結果「脱原発」が多数意見になったとした場合、原発がすでにある自治体の今後をどうするかという問題が出てきます。いきなり原発関連の補助金や税収がゼロになったのでは、やってゆけなくなるでしょう。

 先走ったことを承知で言えば、時限立法で「脱原発助成金」のようなものを支給し、その間に原発依存の体質を改めてもらうようにすればいいのではないかと思います。先ほどのたとえで言えば、麻薬から“離脱”する際の痛みをそれで軽減するのです。よけいなものを作るために補助金を出すより、よけいなものをやめるために補助金を出すほうが、長い目で見ればずっと建設的だからです。

 そういうことを真剣に考えるべきだと、僕は思います。その国民投票に際しては、事前に専門知識をもつ原発推進派と反対派が公平に「徹底討論」する場を設けて、それを「皆様のNHK」がノーカットで放映するなどしてもよい。仕事の都合で見られない人もいるので、時間・曜日をズラして、少なくとも数回、テレビで流すのです(先頃民放の「朝まで生テレビ」という番組でそれの“もどき”が行われたそうで、僕もYoutubeでその一部を見ましたが、「最悪の人選」と言われるとおりのお粗末なもので、あんなのでは駄目です)。

 菅総理はリーダーシップを発揮して、そういうことをおやりになったらどうですか。マダラメなんて、脳の血流がマダラになっているのではないかと疑われるような無能な元東大教授を連れて現地視察なんかするより、ずっとまとまなことで、支持率も上がるのではないでしょうか。

 最後に、その「潤沢な原発マネー」がどこから出ているのか、あらためておさらいしておきたいと思います。

 「電源三法交付金」なるものは、電気代金に上乗せして徴収され、それが国庫に入って、そこから支払われているという話です。電力会社は莫大な広告費(東電一社だけでも年間300億近い)を使って、メディアに広告を出すだけでなく、御用文化人・タレント・知識人・学者・ジャーナリストたちを妾のように囲い込んできたわけですが、それも原資は電気料金です。政治家への献金、有名になった東大への五億の寄附講座なども、すべてそれでまかなわれているのです。

 これまでの電力会社の宣伝によれば、「原発は電力の安定供給に不可欠」であり、「安全」「安価」だという話でしたが、いずれも真っ赤な嘘だというのが、今回あれこれ勉強させてもらって、僕みたいな素人にもわかったことです。考えてみれば、そんな結構なものなら、情報を隠蔽したり、メディアや学者・文化人を飼いならすのに大金を使ったり、逆に不利なことを言う人たちを徹底的に妨害・弾圧したり、する必要はなかったはずです。

 今に始まったことではありませんが、日本という国家の最も深刻な欠点は、いったん「国策」ということになると、それ自体が自己目的化し、どこまでも暴走を続けて、破局にいたるまでやめないことです。途中で、「これは合理性がない」とわかったら、もう一度根本から見直して、方針を転換するということができない。出来上がった利権複合体の力に押されて、また犬も食わない役所のメンツなるものにこだわって、そのままズルズル行ってしまうのです。そうして、それを推進した人たちは誰も責任を問われない。

 原発事故のように、直接命にかかわるようなものではないが、深刻な国土の荒廃を生んだ例を他に一つだけ、挙げておきましょう。こちらは推進母体になったのは経産省ではなくて、農水省ですが、国はかつて補助金をジャブジャブ出して、人工植林政策を推し進めました。「増大する木材需要に対処するため」という名目だったのでしょうが、そのために全国隅々まで、しばしばとんでもない奥山までスギの植林が行われ、各地固有の豊かな原生林は激減しました。皮肉なのは、途中で外材の輸入が自由化され、国内材は価格競争力を失って、伐採の手間賃さえ出なくなってしまったことです。人工林は手間ひまかけないと荒れてしまうのですが、ペイしないから、間引きさえロクに行われなくなり、多くの山が荒れ放題になってしまったのです。そうなると土砂災害の危険性が高まるだけでなく、川も海も荒れてしまう。花粉症の蔓延や、動物が里に降りてきて田畑を荒らすようになったのなども、これが一因ですが、予見性も整合性も全くない政策を取って、うやむやのうちにその「政策」は放棄された…のかと思ったら、まだ姑息にも「第○次計画」なんてかたちで、机上の空論に基づいた混乱したそれを“継続”してやっているというのだから呆れます。

 政治家や官僚機構というやつは、平気でそんな無責任なことをしでかす。原発推進策もこれと基本的に同じなので、害悪はさらに深刻だと言わねばなりません。

 タテマエ上は民主国家になった今も、なぜ江戸三百年の間に培われた非合理な“お上信仰”(それ以前の日本人はもっとワイルドで、独立心というものをもっていたはずです)がなくならないのか、よくわからないのですが、いい加減そういうものはきっばり捨てないと、僕ら日本人は子供たちに何一つプラスの遺産を残すことはできなくなってしまうでしょう。

 今回の悲惨な原発事故を前にしても、なおそのあたりを変えられないと言うのなら、この国はもう滅びたも同然だと僕は思います。

【付記:これを書いている途中、知人からぜひこれを読んでもらいたいといって、ある冊子が届きました。それは『死にいたる虚構~国家による低線量放射線の隠蔽~』(ジェイ・M・グールド&ベンジャミン・A・ゴルドマン著/肥田舜太郎・斎藤紀 共訳)という本です。返さないといけないものだというので、早速読み始めたのですが、世にも恐ろしい本で、「何でこんな重要な情報が非売品のかたちで細々と伝えられているだけなのだ!」と驚かざるを得ませんでした。インターネットで検索すると、たくさんヒットしたので、そちらを見ていただきたいと思いますが、僕も感じたところを次回ここに書かせてもらうつもりです。原発の存在は、大きな事故を起こすか否か以前に、すでにして深刻な問題なのだということが、これを読むとよくわかります。】
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祝子川通信 Hourigawa Tsushin


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