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米朝会談決裂に思う

2019.03.02.00:58

 風が春らしく匂うようになって、イタドリが芽吹きそうだなと、子供の頃の浮き浮きした気分を思い出すこの頃ですが、今回も書くのは政治向きの話です。

 どうやら「最悪の事態」だけは回避されたようです。「最悪の事態」というのは、足元を見透かされたトランプ(公聴会での元顧問弁護士の暴露証言で例の「ロシア疑惑」もピークに達している)が安易な妥協をして、結果として北朝鮮の核保有を容認したまま、経済制裁を解除してしまう、という事態です。

 これが北朝鮮の側から見て「成功」していれば、今日(日付が変わって昨日になりましたが)は韓国のソウルで「三・一運動100周年記念式典」なるものが行われていて、文在寅が演説したそうですが、そのトーンも手柄顔の反日的色彩が強いものになっていたでしょう。ところが大コケしてしまったので、これはまずいと、風見鶏の文らしい「融和的」なものになったらしいのはお笑いです。彼の言う「親日清算」というのは、ふつうに見て「日本との友好的な関係はやめる」としか解釈できませんが、経済がボロボロの中、北朝鮮政策で人気取りをしようとしているのに、そちらもうまく行かず、このまま日本を敵に回していたのでは八方ふさがりになると、慌てて演説の攻撃的な文面を削ったのでしょう。韓国の聯合ニュースの記事によれば、

 文大統領は演説で、親日残滓(ざんし)の清算、歴史を正すことを強調しながら「今になって過去の傷をほじくり返し分裂させたり、隣国との外交で葛藤要因をつくったりしようとしているのではない」と述べた

 そうですが、実に彼らしい曖昧模糊たる妄言です。現実にはたんなる自己矛盾の告白でしかありませんが、どうしていいかわからないので、意味不明のたわごとを言うしか能がなくなっているのでしょう。金正恩の忠実な使い走りとして、世界中を回って西側首脳に経済制裁の解除を説き、「これまでの北朝鮮の嘘つきぶりと人権無視の恐怖政治、金正恩の連続殺人鬼じみた側近粛清(居眠りをしただけで殺される)を見てきて、彼のどこがそんなに信用できるのか?」と呆れられていたのですが、トランプは彼の思ったように踊ってくれず、世界にとっては幸いなことですが、目論見は失敗したのです。

 この会談の失敗は、しかし、トランプというより、米側の実務者レベルにまだ良識のあるしっかりした人たちがいたおかげでしょう。トランプその人は、アメリカに核ミサイルが飛んでこず、北朝鮮が「非核化への真摯な努力」をしているそぶりを見せさえすれば、世界への面目も一応立ったとして、部分解除ぐらいは約束しそうな感じだったからです。それがどういうことを結果するかは目に見えているので、心ある人は皆心配した。

 興味深いのは、「決裂」の理由について、北朝鮮側がトランプとは違う説明をしているということです。次は「北朝鮮外相が深夜に会見、トランプ氏の発言に反論」と題した朝日の記事です。

 ハノイで開かれた米朝首脳会談に臨んだ北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長に同行している李容浩外相らが1日未明、韓国など一部メディアを対象に記者会見を開いた。李氏は、トランプ米大統領が28日の会談後に開いた記者会見で、米朝が合意をまとめられなかった理由に正恩氏が経済制裁の全面解除を要求したことを挙げたことをめぐり、「我々が要求したのは全面的な制裁の解除ではなく、一部の解除だった」と主張した。

「全面解除」を求めるほどわれわれは厚かましくなく、つつましく「一部の解除」を要請しただけだったとのたまうのです。それがほんとかどうかはともかく、記事はこう続きます。

 記者会見を中継した韓国YTNによると、李氏は北朝鮮側が求めた制裁解除について、「国連制裁決議の計11件のうち2016年から17年までに採択された5件で、民間経済と人民の生活に支障を与える項目」について、まず解除を求めたと主張した。
 そのうえで、米国が解除に応じれば「(核施設のある)寧辺地区のプルトニウム、ウラニウムを含むすべての核物質施設を、米国の専門家たちの立ち会いのもと、両国の共同作業で永久に廃棄すること」を、首脳会談では提案していたことも明らかにした。李氏は、この提案について、「これは朝米両国間の現在の信頼水準からみて、我々が考える最も大きな幅の非核化措置」だとした。
 李氏はまた、米国は北朝鮮がとるべき非核化措置について、「寧辺の廃棄のほか一つを追加しなければならないと主張した」と指摘。「他の一つ」が何かは具体的に説明しなかったが、「これにより米国が我々の提案を受け入れる準備がなされていないことは明白になった」と述べ、北朝鮮の提案を米国が受け入れなかったことが、合意に至らなかった理由であることを示唆した。李氏は提案が「最良の方法」だとして、今後も米側に応じるように求めていくとした。(ハノイ=武田肇)


 何のことはない、北朝鮮自身が「用済み」とみなしている「寧辺地区」の核関連施設だけ「廃棄」するので、制裁の部分解除に応じろと、進歩のないことを言っていただけなのです。実際は別のところに核を隠匿していると世界は見ている。北朝鮮には「核を廃棄」する気などやっぱりないのです。アメリカ側の要求はすこぶる穏当なものだった。北朝鮮のこの程度の「提案」をアメリカが呑んだのでは、のちのち大きな災いを結果して、後世に「トランプ禍」として語り伝えられることになったでしょう。

 むろん、文在寅などは、そうなっていれば大喜びしていたでしょう。自国にも近隣にも大きな潜在的脅威をつくり出しておいて、それを「朝鮮半島の平和と統一への大きな一歩」だと感激の面持ちで語る。ファンタジーに頭をやられて、理性的・現実的な認識能力を失ったこの無責任な男ならそう語っても何ら不思議はないのです。

 経済制裁でとことん追いつめられた北朝鮮が「暴発」する可能性はこの先ある。それはたしかでしょう。ミサイルが日本に飛んでくることもありうるわけです。しかし、だからといってトランプがあのとき要求を呑んでいれば…ということにはならない。その場合に生じる危険と秤にかければ、北朝鮮が核武装を正当化して、経済援助を軍事費や兵員の強化に回し、夜郎自大ぶりがさらに募った場合の方がはるかに危険です。金正恩が「改心」して、「よい指導者」になる可能性はほとんどない。

 最近は「体制の温存」が自明視されていますが、あの異常な政治体制はやはり崩壊させるのが正しいでしょう。金日成、金正日、金正恩と世襲で三代続いてきた北朝鮮の恐怖政治は、反対派を片っ端から政治強制収容所に送り、あるいは惨殺し、少なく見積もっても何十万(実際は一桁多いかも知れない)もの自国民を死に追いやってきたのです。そしてたびたび飢餓に見舞われて、その都度多くの餓死者を出してきた。恫喝外交によって他国に経済援助を迫り、約束は毎度のように反故にする。キューバなどと違って、そこには理想のかけらもなく、世界最悪の人権蹂躙国家とみなされているのです。行政も軍も腐敗の極みにある。ご自慢の「主体(チュチェ)思想」なるものはたんなるブラックジョークでしかありません(彼の悪行については、誇張と思われると困るので、最近のニューズウィークの記事を最後に付けておきます)。

 国境を接する中国は北朝鮮の体制が崩壊し、大量の難民が流れ込んでくることを迷惑視し、また、反米国が朝鮮半島にあること、自分以上の嫌われ者がいてくれた方が好都合だというのがあって、一時はトップの首をすげ替えることも考えたようですが、体制の存続自体は望んでいるようです。少なくとも、自由な民主主義国家に変身することだけは、共産党一党独裁国家の手前、やめてもらいたいところでしょう。そうした中国の利己的な現実主義も、間接的にこの異常国家の存続を助けてきた。しかし、北朝鮮人民の塗炭の苦しみはずっと続いてきたのです。イデオロギーに頭をやられた文在寅などは、「旧日本軍従軍慰安婦のおばあさんたち」の手を取って流す涙はあっても、北朝鮮国民の迫害と貧窮に対して流す涙はもたず、迫害の元凶である独裁者に「熱い連帯の情」を示すことに何のためらいもないようですが(当然ながら、韓国内部にもそれに対する強い批判はある)。

 今後、北朝鮮が内部崩壊することがあるとすれば、それは軍部によるクーデタでしょう。軍部が金正恩よりマシだという保証は全くないので、緊張は一気に高まると思いますが、それを成功させるには「開放」政策しかないので、リーダーが頭のいい人間なら、事態はいい方向に展開する可能性がある。韓国との統合も実現の方向に向かうかもしれない。過去の朝鮮国家と同じく、また今の韓国と同じく、派閥対立で国論の統一ができず、「心を一つ」にできるのは反日を叫ぶときだけだというので、経済的にもしんどいから、またぞろ日本に過去の賠償を要求してやまない、ということになると、わが国にとっては「またかよ…」ということにならざるを得ませんが、世代交代も進むので、もう少し「未来志向」(文政権のそれは完全なナンセンスですが)の関係になって、朝鮮半島の新国家建設にわが国もこころよく協力できるようになるかもしれません。

 そう願いたいもので、本当のところ、今はつまらないことで争っている場合ではありません。地球温暖化の問題は早急な対処を迫っているし、世界的に拡大する一方の貧富の格差も是正しないと世界中の国家に深刻な政情不安をひき起こす。トランプみたいな自分、自国ファーストのデマゴーク政治家ではなく、他を思いやる心をもつ、国際協力にも熱心なリーダーが増えてくれないことには、この世界は対立と混乱の中で自滅するしかなくなるでしょう。今必要なのは偏狭な愛国心の類ではなくて、広い愛・地球心の方でしょう。ほとんどの問題が世界的な協力と知恵の共有なしでは解決できない。悪い方向に傾いているのは政治だけではない。今は企業もいかに合法的に脱税するか、人件費を低く抑えて内部留保を高め、株価を維持するために株主に高配当をするかだけになって、日本の場合だと、政府が公的資金の大量投入で株価だけ維持していればいいみたいになって、従来の景気指標が実際の景況感とは無関係になっているのです(実質賃金は下がり、ブラックな職場が増えただけというのでは、元気が出るわけはない)。これは日本だけにかぎった話ではないので、世界的なトレンドです。つまり、利己主義があらゆるシステムをスポイルして、世界を崩壊に導いているのです。それを歓迎するのは戦争で一儲けして資産を増やそうと目論んでいる「死の商人」どもだけでしょう。

 北朝鮮問題からは脱線しましたが、そういう状況にあって、ああいう時代錯誤のどうしようもない恐怖独裁国家が安閑として存続するというのは、北朝鮮国民にとってのみならず、世界にとっても望ましくないことです。金正恩は何より暗殺を恐れているようですが、仮にそうなったとしても、彼のこれまでのおぞましい所業からしてそれは自業自得なので、同情には値しない。そういうかたちのハードランディングによってしか北朝鮮の体制変革は起きないのか、それとももっとマシなソフトランディングがありうるのか、僕にはわかりませんが、これまで通りのやり方では何も解決しないということを金正恩とその取り巻きは学習する必要があるでしょう。その意味で、やはり安易な妥協はしない方がいいのです(日本人拉致問題の解決なども、今のあの体制下ではまず絶対に無理でしょう)。

今だから振り返る、金正恩の残虐な犯罪の数々

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