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米朝首脳会談キャンセルの波紋

2018.05.25.17:33

 事の深刻さに鑑みれば笑って済ませられることではありませんが、笑いたくなるのはいかんともしがたいところです。「北朝鮮、トホホの結末」とでも言うべきか、オバマ相手になら通用したかもしれない戦法も、相手がトランプでは機能しなかったのです。

 定例の米韓共同軍事演習を激しく非難したあたりから雲行きはヘンでしたが、下心はどうあれ、一時えらく分別ありげな対応を見せていたのが嘘のようで、あれに軍部が反発して、金正恩には実はそれを抑えられるほどの力はなかったということなのか、それともたんに元に戻っただけなのか知りませんが、「強く出さえすれば相手は必ず折れてくる」という、“伝統”の街のゴロツキ的恫喝戦略に戻って、それがみじめな失敗に終わったわけで、「笑顔作戦」で金正恩と仲良く会談して米朝会談の下準備をした、韓国の親北お月さん大統領も面目丸潰れです。

 以下、問題のトランプの「キャンセル通告」の金正恩宛お手紙に関する記事です。上が毎日で、下が米CBSニュースの英文記事。

米朝首脳会談中止 トランプ大統領が発表

Trump cancels North Korea meeting with Kim Jong Un

 CBSの記事は手紙の文面が読める大きさです。大学受験生ぐらいなら十分読解できるレベルの英文なので、高校生もトライしてみるといいと思います。with respect to なんかは入試にもよく出る重要熟語(~に関して)だし、a summit long sought by both parties が「双方によって長く模索されてきた首脳会談」の意味であることもおわかりでしょう。be informed もおなじみだし、irrelevant (的外れ、無益な)も、憶えておいた方がいい単語です。take place は、ここでは「行われる」。最近はわが国でもお偉いさんたちの「不適切な」発言が目立ちすぎますが、それは inappropriate で、上の毎日の記事にも出ていますが、the tremendous anger and open hostility displayed in your most recent statement は「最直近のあなた方の言動に示されたすさまじい怒りと露わな敵意」です。それに鑑みてトランプ氏は、予定された会談を行うのは「不適切」と判断したというのです。

 最初に相手の労をねぎらう言葉から入ったこの手紙は、全体になかなか巧妙な書きぶりで、いつの日かお会いできるのを楽しみにしている、気が変わったらいつでも相談に応じると言い、人質解放への謝意なども散りばめられていますが、真にトランプ大統領らしいのは、You talk about your nuclear capabilities, but ours are so massive and powerful that I pray to God they will never have to be used(あなた方は自国の核能力を誇示するが、われわれのそれは比べものにならないほど強大なので、それを使わなければならなくなる日が来ることがないよう、私は神に祈っているほどだ)という箇所です。水鉄砲と機関銃ぐらいの差はあるので、のぼせるのもいい加減にしろ、このクソガキ、と言いたいのです。他はどうでも、ここは絶対に入れろと、トランプは指示したのでしょう。

 別の毎日の記事にもあるように、これに先立ち、

(北朝鮮の)崔次官は、ペンス米副大統領が軍事的対応を排除しない姿勢を示し「リビアのように終わる(引用者注:非核化の話し合いに応じなかった場合)」と発言したことを非難。「我々はリビアの轍(てつ)を踏まないために高い代価を払った」と述べ、最高指導者が殺害されたリビアと、「核保有国」となった北朝鮮の違いを強調した。
 そのうえで首脳会談について「米国が会談場で会うのか、『核対核の対決』の場で会うのかは、ひとえに米国の決心と行動にかかっている」と主張し、「我々は米国に対話を哀願しないし、米国が対座しないというなら引き止めない」とけん制した(北朝鮮外務次官「米非道続けば再考提起」)


 ということがあって、これはそれを踏まえたものなのでしょう。ご存じのように、この「崔次官」というのは「崔善姫」で、名前からわかるように女性です。ウィキペディアには「2009年8月、アメリカ合衆国ビル・クリントン元大統領が平壌を訪問した際に通訳を担当して表舞台に立った。2010年10月に外務省米州局副局長に就任。2016年には、6カ国協議に関連して北朝鮮次席代表として中国を訪問した。同年、北朝鮮外務省の北米局長に昇格した」という北朝鮮版“華麗なる経歴”の持主で、今や「次官」という望みうる最高の地位に就いたのですが、上の英文記事にもあるように、ペンス副大統領発言を「無知で愚劣(ignorant and stupid)」だと罵っていたのです。アメリカにしてみれば、北朝鮮の「次官ふぜい」が大国アメリカの副大統領を「アホバカマヌケ」呼ばわりすることは許しがたい。

 しかし、よく考えてみれば、この米朝首脳会談は、仮に開かれていたとしても、結局決裂に終わるしかなかったでしょう。金王朝保全と経済援助の見返りに「確実な非核化」を要求するアメリカと、「核保有国」の地位を認めさせ、「対等の交渉相手」として遇されるのを要求する北朝鮮とでは、折り合うはずがないからです。北朝鮮としては、「交渉を成立させて北朝鮮の暴発を防ぐためには、今程度の核保有は認めてやるしかない」という世界のメディアの一部論調を過大評価しすぎた、ということだったのかも知れません。核保有という既成事実さえ作ってしまえば、交渉は有利に運ぶと思ったのが、そうはならなかったのです。わが国としては、なってもらっては困りますが。

 初めから蚊帳の外に置かれていた日本政府は、トランプに徹底して「臣下の礼」をとり続けてきた安倍が「拉致問題もそのとき話してくださいね」とお願いする程度のことしかできなかったのですが、その希望も朝の露と消えたわけです。

 北朝鮮の虚勢は毎度のことで、アメリカ相手に「『核対核の対決』の場で会う」なんて能力がないのはわかりきったことなので、現実的にそんなことは考えるわけもありませんが、韓国や日本にとっては由々しき事態です。隣国では関わりをもたない戦略を取ることもできない。こういうのは、個人でいえば、身内や職場の同じ部署に話の全く通じない、救いようのないのぼせたアホがいるのと同じで、煩わしいことこの上ない。関わりたくなくても、先方が勝手に関わってくるのです。

 それで日本も核武装して…なんて議論もげんにあるようですが、現段階でも日米韓の同盟に北朝鮮が戦争を仕掛けて勝てる確率はゼロなので、北朝鮮が正気を保っているかぎり、そのようなことはしない。わが国が核武装したとして(仮に他国、とくにアメリカと中国がそれを容認したとすれば、の話ですが)、その緊張は北朝鮮に正気を失わせるように作用することはあっても、逆のことはないでしょう。だから、問題を解決するより、むしろ事態をさらに悪化させる。中国との軍事衝突の危険も現実のものとなるでしょう。要するに、軍拡路線では絶対にうまく行かないということです。

 アメリカが今回の会談のベースにしていた、金王朝、金正恩の独裁体制を存続させるということ自体にそもそも無理があって、一族の生命の安全は保証するから、というので、彼を政権の座から下ろし、何らかの形であの国の政治の民主化が図れれば一番いいのですが、そういう方向に持ってゆくいい方法はないのですかね? あの年齢であれだけブクブク太っていれば、彼は長生きはできないでしょう。しばらく待てば軍人の世代交代も進むだろうし、中にはまともな幹部も出てくるかも知れない。敵対一辺倒ではなく、北朝鮮とのパイプも維持し、暴発を防ぎながら、タイミングを待って…という戦略しかないように思えます(でないと無益な戦争しか選択肢はなくなり、そうすると、中国がどういう出方をしてくるかもわからなくなる)。この問題は短兵急には解決できないので、米韓日に中国も加えた四ヶ国が協力して、緊張を持ちこたえ、辛抱強く解決の方途を探っていけるかどうかが鍵かも知れません。むやみな譲歩はああいう相手には禁物で、幻想を抱く韓国の現大統領などはそのへんがちょっと怪しく、頼りないのですが、かといって制裁一辺倒で、「窮鼠猫を噛む」状態に追い込むのは得策ではない。外交の難しさはそこらへんにあるので、そのあたりの「複雑さ」に耐えられる懐の深い政治リーダーが出てきて、舵取りをしてもらいたいものです。

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