論語の正名論と安倍政権

2017.06.12.16:48

 昨日見たヤフーのニュースサイトに、「菅氏『たまたま総理の友人』」という見出しの、次のような神奈川新聞の記事が出ていました。

 学校法人「加計学園」(岡山市)の獣医学部新設計画を巡る問題で、菅義偉官房長官(衆院2区)は10日、「たまたま(同学園の理事長が)総理の友人だったが、元々地域から(申請が)出されていた」と述べ、改めて問題ないとの認識を示した。神奈川新聞社の取材に答えた。

 菅氏は、今治市(愛媛県)などが2007年から加計学園を前提に提案していた新設計画が、民主党政権時に「速やかに検討」に格上げされながら実現されなかった経緯を説明し、「私たちの政権で、きちっと行うことができた」と成果を強調。農業改革などの取り組みも例に挙げ「現実問題として、そういうものに風穴を開けていくのが私たち。まさに岩盤規制をぶち破る政権だ」と述べた。


「よく言うよ」とはまさにこのことで、総理夫人・アッキーが深くかかわった森友学園のバーゲン的な国有地払い下げも、加計学園の獣医学部の件も、「安倍のお友達」だったからこそ行われたことで、そうした権力の私物化は「岩盤規制をぶち破る」という“大義”とは何の関係もないと大方の人は理解しているのです(上記記事には「今治市(愛媛県)などが2007年から加計学園を前提に提案していた新設計画が、民主党政権時に『速やかに検討』に格上げされながら実現されなかった経緯」とあって、あたかも民主党政権には実力がなかったからそれが「実現」しなかったかのようですが、手続きがまともなら、今回も実現はしなかったはずなのです)。

 こういう屁理屈が通用するなら、銀行強盗が「資本主義の悪」に挑戦するためにあえてそれをやったという理屈も通ってしまうでしょう。安倍政権というのはこの手の詭弁だらけで、まともな論理がほとんど一つもない。今さら論語の話なんかしたところで文字どおり「馬の耳に念仏」でしょうが、「正名」ということがあって、「名不正則言不順、 言不順則事不成(名目が正しく立っていないと、話の筋が通らない。話の筋が通らないと、政治が成功しない)」とあるとおり、世が乱れるもとになるのです。

 これはその後も面白い。「事不成則禮樂不興、禮樂不興則刑罰不中、刑罰不中則民無所措手足」と続くのです。訳(すべて貝塚茂樹氏による)は、「政治が成功しないと、礼楽つまり文化は振興しない。文化が振興しないと、裁判が公平でなくなる。裁判が公平でないと、国民は手足を伸ばして休息することができない」というもので、例の共謀罪は「国民は手足を伸ばして休息することができない」社会を作り出す天下の悪法ですが、「名不正(言葉と現実にやっていることが大違い)」政権が、「これがないと2020年の東京オリンピックは安心して開催できない」「必要な国際条約に批准できない」という大嘘の「印象操作」によって国民を欺き、強引に成立させようとしているのです。

 こういう「名不正(名正しからざる)」政治が大手を振ってまかり通ると、社会に混乱と汚濁がまき散らされ、何が正しくて何が正しくないのか、しまいにはわからなくなってしまいます。それは言論自体に対する不信となって、「理屈はどうとでもつく」という言葉への侮蔑を招き、国会での論戦など何の意味ももたなくなってしまいます。そして要は「数の力」さえ握ればよいとなって、民主主義的な手続きなど意味のないものになってしまうのです。

 すでにそうなってしまっている。森友の件でも、加計学園の件でも、はたまたこの共謀罪の件でも、安倍政権は批判に対してまともな反論をほとんど返していません。「できない」というのがほんとのところなのでしょうが、国会で絶対多数を握っているので、その都度“逆ギレ”してしのいでいれば何とかなると思っているのです。有権者が怒って、支持率が20%台に下がってしまうというようなことにでもなれば、次の選挙での審判を恐れる自民は恐慌状態に陥り、安倍降ろしが始まるのですが、そうはならないと高を括っているのです。

 ちなみに、冒頭の神奈川新聞の記事の下に「関連記事」一覧があって、その中に、「『共謀罪反対!』国会周辺で大規模デモ」というのが入っていたので、ついでにそれも見ると、6月9日に国会正門前で共謀罪に反対する4000人規模のデモが行われたというニュースです。この中の石田英敬東大教授の言葉の箇所をコピーしようとしたら、神奈川新聞のこのサイトはそれができなくなっているらしく、仕方がないので他の記事を探していたら、次のYoutubeの録画に行き着きました。他のアジ演説の声が途中で混じって、多少聞き苦しいところはありますが、全部聞くに値するよい話です。15分なので、今はそれでも長すぎて集中力が続かないという人が大勢いて、そういうのも安倍政権をのさばらせる一因になっているのですが、このブログの読者なら大丈夫でしょう。ご存じなかった方はぜひクリックして視聴して下さい。僕はこの意見に100%賛同します。

2017.06.09「共謀罪法案に反対する金曜国会前抗議」: 石田英敬さん

 上記のスピーチの中で、石田教授はカントの言葉だと断りながら「理性の公的使用」という言葉を使っていますが、僕が最近つくづく思うのは、この能力が国民レベルで著しく衰退しているのではないかということです。だから安倍政権はこれだけのことが重なっても「支持率は下がらない」と安閑としていられる。株価が暴落したり、消費税を値上げすると言えば、それは「理性の私的使用」(石田教授は安倍政権の「国政の私物化」を念頭にそう言っているわけですが)にかまけている人たちには自分の生活に直接響くから、「けしからん!」ということで、支持率は一気に下がる。でなければ何をしようと無事なので、安倍のお友達政治による「社会的公正の侵害」も、共謀罪法案の招来及ぼすことになるであろう危険性にも、感情的にほとんど反応しないのです。「理性の公的使用」を知らない人は、公憤や義憤というものを覚えることがなく、その方面の想像力も持ち合わせていないからです。「立派な人」に見せようとして、気にしているようなそぶりはして見せるかもしれませんがね。

 国民はそのあたり、すっかり足元を見られているので、野党が国会でいくら追及しようが、週刊誌や新聞(読売・産経は除く)がいくらその「不正」を糾弾しようが、安倍政権は「支持率に大きな変化はない」と踏んで、ああいう態度を取り続けているのです。

 こういう記事(ライブドアニュース)もありました。

 11日放送の「サンデーモーニング」(TBS系)で、関口宏が、安倍政権の高支持率を支える若者たちの心情に苦言を呈した。
 番組の「風をよむ」コーナーでは、安倍内閣が持つ高い支持率の秘密を特集した。JNNが今月3、4日に実施した世論調査では、安倍内閣の支持率は54.4%と、不支持の44.1%を10%以上上回った。
 埼玉大学の松本正生(まつもと・まさお)教授は、団塊の世代を中心とした高齢層が自身の資産事情と絡めて、株価重視の政策を続ける政権を支持していると指摘する。そして、若年層からの支持率も非常に高いと解説した。年代別の内閣支持率で見た場合、他の支持率が50%前後で推移する中、18~20代は68.0%と、飛び抜けているのだ。
 また、スタッフが街頭インタビューを実施したところ、若者たちは「安倍政権になってから急激な変化がなかったので安定している」「これまでの人より安心できる」と、従来の政権より高い安定性を高評価した。さらに、就職率が回復傾向にあることも、安倍政権を支持する大きな理由だという。


 この分析はかなり当たっているだろうと思います。コア層のネトウヨだけでは高が知れているので、団塊世代から上の小金持ち層と、「安全第一」の若年層が「消極的支持」を与えているからこそ、この数字になるのです。自分の私生活が脅かされないかぎり、政治の嘘も気にならない。市民運動なんかとも関係ないから、共謀罪もどうでもいいのです。

 しかし、そうしたなかで、政治の腐敗はどんどん進んでゆく。国民の内向き志向、ミーイズムの拡大と事なかれ主義がそれを助けているのです。それでいいのか?

 最後に、論語・子路篇のさきほど引用した箇所の全文を、読み下し文、訳と共に今一度引用しておきます。安倍政権の現状に照らし合わせて読むとき、これはいっそう意味深長なものとなるでしょう。日本会議をはじめ、安倍応援団の皆さんはこういう本、『聖典』とあがめているはずではなかったのですか? ここで述べられていることは、安倍のやってることの、ちょうど正反対だと思われるのですが…。

子路曰、衛君待子而爲政、子將奚先、子曰、必也正名乎、子路曰、有是哉、子之迂也、奚其正、子曰、野哉由也、君子於其所不知、蓋闕如也、名不正則言不順、 言不順則事不成、事不成則禮樂不興、禮樂不興則刑罰不中、刑罰不中則民無所措手足、故君子名之必可言也、言之必可行也、君子於其言、無所苟而已矣。

 子路(しろ)曰わく、衛の君、子(し)を待ちて政を為さしむれば、子将(まさ)に奚(なに)をか先にせん。子曰わく、必ずや名を正さんか。子路曰わく、是(これ)有るかな、子の迂(う)なるや。奚(なん)ぞそれ正さん。子曰わく、野(や)なるかな、由(ゆう)や。君子は其の知らざる所に於(おい)て蓋闕如(かつけつじょ)たり。名正しからざれば則ち言(げん)順(したが)わず、言順わざれば則ち事成らず、事成らざれば則ち礼楽(れいがく)興(おこ)らず、礼楽興らざれば則ち刑罰中(あた)らず、刑罰中らざれば則ち民(たみ)手足を措(お)く所なし。故に君子はこれに名づくれば必ず言うべきなり。これを言えば必ず行うべきなり。君子その言に於て、苟(いやしく)もする所なきのみ。

 子路が(孔子)におたずねした。
「衛の殿さまが先生をお引きとめして、政治を任されることになったら、何から手をつけられましょうか」
 先生がいわれた。
「何よりも混乱した名目を正しくしたいね」
 子路がいった。
「これだから困りますよ、先生の迂遠なのには。よりによって、何を正しくされるというのですか」
 先生がいわれた。
「あいかわらず野蛮だな、おまえという男は。君子は自分のよくわからないことは知らん顔をしているものだ。名目が正しくたっていないと、話の筋がとおらない。話の筋がとおらないと、政治が成功しない。政治が成功しないと、礼楽つまり文化は振興しない。文化が振興しないと、裁判が公平でなくなる。裁判が公平でないと、国民は手足を伸ばして休息することができない。だから、君子は何かに名をつけるとき、ことばではっきりわかるようにし、そしてそれを発言すれば、必ず実行できるようにする。君子は何か発言するにあたって、軽はずみなことはしないのだ」(『論語』貝塚茂樹訳注 中公文庫p.352~354)


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