つかまえてみたら犯人はPTA会長だった、という話

2017.04.17.14:23

 こういうのはたしかに子供をもつ親御さんたちにとっては「衝撃」でしょう。例の千葉県我孫子市で、地元の公立小に通うベトナム国籍のレェ・ティ・ニャット・リンちゃん(9歳)の遺体が見つかった事件です。自ら志願して保護者会(PTAと実質的に同じ)会長になり、登下校時の「見守り」活動にも熱心に参加していた二児の父親が、同じ学校に通う小3のいたいけな女の子を誘拐し殺害、遺棄した犯人だった(まだ確定ではありませんが、警察は十分な証拠を握っているのでしょう)というのですから。「もう誰を信じていいのかわかりません」となるのは必定です。

 たぶん逮捕された「不動産賃貸業」渋谷恭正容疑者(46)は病的な小児性愛者の一人だったのでしょう。この「不動産賃貸業」というのも親の遺産をそのまま引き継いだもので、実態は体のいい無職だったようです。ヒマがたくさんあって、妄想を膨らませた挙句の犯行だったと見れば何ら不思議はないのですが、こういう「内部の犯行」は防ぐのが難しい。前にもセキュリティ万全のマンションに住む若い独身女性が行方不明になり、犯人は隣の部屋に住むIT関連の企業で働く技術者だった(逮捕されるまではマスコミの取材にも応じ、「こわいですねえ」などと素知らぬ顔で話していた)というケースがありましたが、それと似たような話です。

 学校の教師にも小児性愛者は混じっているし、こういうのは難しいなと思います。「人を見たらヘンタイと思え」と子供に教えるのでは教育上よろしくない。別に変態ではない、子供好きのオトナは昔からいるものですが、今だと知らない人は全員「不審者」です。

 前にスーパーの前で、僕はよちよち歩きの可愛い男の子が何かウワウワ言いながらこちらに近づいてくるのに出くわしたことがあります。僕に何か言っていることはわかるのですが、それが何なのかはわからない。実にフレンドリーな幼児で、足元まで来たので抱き上げて、「どうしたの?」ときくと、手をのばして人のほっぺたを触ったりしながらまた何か言う。依然として内容は不明ですが、上機嫌です。これぐらいの年齢の子は目の白い部分がうっすらと青みを帯びていて、いかにも“新品”という感じがするのが可笑しいのですが、にしても、この子は一体どこから来たのか…。そう思って見ていると、駐車場の方から母親らしき人が小走りに駆けてきて、「すみません、すみません!」と言いながら、その子を僕の手からひったくりました。そのお母さんの目には野球帽にジーパン姿の中年男の僕が「危険な不審者」としか見えなかったのは明らかで、苦笑したのですが、仮に僕がその子を抱いたままスーパーに入って、アイスなど買ってあげたりしていれば、行方不明の知らせを受けて駆けつけた警察官に誘拐犯扱いされてしまったことは確実でしょう。

 せちがらい世の中になったと嘆いても仕方がない。今の子供たちは多くの危険にさらされていて、親たるもの、それからわが子を守らねばならない(と思っている)のです。しかし、PTA会長が最も危険な変質者だったということになると、途方に暮れざるを得ない。世間の常識からすれば、そういう人は「安全」だということになっているからです。

 要するに、そういうステレオタイプな人の見方が間違っているわけで、PTAの役員だから信用できるというわけでも、部外者の子供好きはみんなヘンタイというわけでもないのは、考えてみればわかりきったことです。そこらへんは個別に人柄を判断する他ない。

 むろん、「個別に人柄を判断する」といっても、それも容易ではないわけで、うかつに「あれは要注意だよ」なんて言うと、「みだりな中傷」ということになりかねない。後で問題が起きて、「あのときは失礼なことを言う人で、そういう偏見で人を見てはいけないと思ったんですが、やっぱりそうでした。何でわかったんですか?」と言われたことが僕は過去に何度かあります(むろん、その「問題」は殺人ではない)が、そういうのは言葉では説明しにくいので、英語で言うweirdな印象を受けないかぎり、いくら口が悪くても僕もそんなことは言いませんが、そういう人もたまにはいるのです。学歴とか社会的地位とか、愛想がいいとか悪いとか、そういうのは関係ない。だから子供がまだ小さくて、そういう人が周りにいれば、僕はそれとなく警戒するでしょう。日雇い労務者風の気のいいおじさんとか、悪ぶってるが根は善良なヤンキーとか、そういうのは一目で大丈夫とわかるので、そういうことで人を差別したりはしていないつもりです。

 前に東京にいて短期間サラリーマンをしていた頃(まだ三十代でした)、仕事帰り会社の人たち何人かと山手線に乗ったら、僕は混んでいるのが苦手で、どういうわけだか空いているところが見えたので、「あっちに行こう」と言って移動したら、そこにいかにも日雇い労務者風のおじさんがいて、缶ビール片手に何かわめいている。口の周りに泡がいっぱいついているのがユーモラスで可笑しかったのですが、周りの乗客たちはそれを遠巻きにしていて、だからそこだけ空いていたのです。

 僕は「おじさん、どこから来たの?」とたずねました。おじさんは話相手が見つかったので大喜びで、大阪のあいりん地区から来て、今は山谷にいるが、東京の日雇い労務者は堕落している、とご立腹でした。大阪には自由があったが、山谷の労務者たちは暴力団の何とか組に牛耳られていて、独立不羈の気概を失っていると嘆くのです。僕は大いに共感して、耳を傾けましたが、話が結構面白かったのです。

 池袋で別れの挨拶をして降りたのですが、ホームを歩いている時、会社の同僚の女性が「大野さんはああいう人の扱いに慣れてるのね」と呆れたように言いました。僕には一目でその人が善良な人だとわかったから話しかけたので、恐れる方がどうかしているのです。こういうのとは反対に、いかにもエリートサラリーマン然としているが、まっ黒なオーラを発している人間もいるので、僕はむしろそちらに警戒する。ところが、そういう場合には平気で皆さん、そばに立っているのです。人間に本来備わっている第六感が退化しているとしか思えない。僕は文明人ではないので、まだそういうものを幾分か残しているのです。

 こういう事件もその第六感が働けば、それとわかって防げるような気もするのですが、どうなのでしょう? 僕はアッキーなんかと違って十分に論理的な人間のつもりですが、そうした直感は大事にしているので、太陽神経叢(これは大体みぞおちのあたりに位置します)に寒気が走るような人間には警戒します。渋谷容疑者は偽装に長けていたのかも知れませんが、見る人が見ればすぐにそれとわかるものをもっていたのではないでしょうか?

 いずれにせよ、人は個人単位で、しかも見かけや肩書に頼るのではなく、見なければならない。PTAの会長がヘンタイだったなんてことはめったにないと思いますが、風体の怪しげな人も大方は危なくないのです。だから神経質になりすぎるのも考えものなので、登下校の「見守り」なるものも、交通安全の観点からすれば意味をもつでしょうが、変質者はそこらにゴロゴロいるわけではないので、誘拐防止のためにそれをやるというのは行き過ぎでしょう。今回の件などは、警戒に当たっている当の大人たちの中に犯人がいたわけで、彼はそれを悪用して子供の通学パターンなどを頭に入れ、犯行に及んだのです。システムがかえってあだとなった。保護者会の会長がそんな人間であるはずがないという「常識」も盲点の一つになったのです。

 彼の友人や一緒にボランティア活動をしていた人たちの中には、その危険性を感じ取っていた人もいるでしょう。問題はそういう場合、どういう手立てがとれるかです。小児性愛者でも殺人にまで及ぶことはそうないだろうから、うかつに「あいつは危ない」なんて言うと、名誉棄損で訴えられかねない。人間関係のもつれから、別に危なくない人を危ないと言って排除しようとする人だっているでしょう。そこらへんが悩ましいところですが、病的な傾向、異常性を察知したときは、それを他の人にも伝えて、それとなく警戒することはできるでしょう。犯罪的傾向をもつ人間はそういう空気には敏感なものなので、それは抑止力にはなる。疑われていると知れば、厚かましくPTA役員に立候補などもできなくなるでしょう。

 こういう問題はケース・バイ・ケースで、単純な解決策などあるはずもありませんが、女児には妙にベタベタし、男の子には平気で暴言を吐くなどの行動が観察されていたようだから、こういうのは「おかしい」にきまっているのです。この手の人間には必ずそれ「くささ」が伴うものだと思うので、周りの大人たちはそのあたりもっと敏感であってしかるべきでした。「地元の名士」だったという報道もありますが、ロクでもない自称「名士」はいくらもいるものなので、そういうので信用する方がどうかしているのです。

 ちなみに、最近は「PTA無用論」もよく聞かれます。僕は以前、知り合いの小学校の年配の女性の先生から、「親睦」と称して見るに堪えない下品な宴会(男性教諭によるストリップの出し物まであるのだという)をやったり、不倫(教師と親、ときに親同士)の温床になっているあの集まりは無用の長物で、ない方がマシ、という話を聞いたことがあります。今回は別の面でその「最悪の結果」を示してしまったわけで、何ともはや、です。

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