悲劇の女帝 朴槿恵

2017.03.12.16:20

 いかにも韓国らしいと言ってしまえばそれまでですが、韓国の憲法裁判所は先日10日、8人の裁判官全員一致で「大統領罷免」の決定を下しました。要するに現職大統領をクビにしたわけで、「朴氏、失職後も大統領府に 罷免に強い衝撃『言葉ない』」という見出しの本日付の朝日新聞の記事には次のように書かれています。

 韓国大統領で初めて弾劾(だんがい)訴追によって罷免(ひめん)された朴槿恵(パククネ)氏は、11日も夜まで沈黙を守り、ソウルの大統領府(青瓦台)にとどまった。大統領府関係者は、罷免の衝撃が大きく、次の行動に移れないようだと明らかにした。意思疎通を欠く「不通(プルトン)」と呼ばれた政治スタイルで周囲の意見が耳に入らず、罷免を受け入れられない様子が浮かび上がった。
 関係者によれば、10日に憲法裁判所が罷免を宣告後、大統領府幹部らは朴氏と今後の対応を協議した。朴氏は強い衝撃を受けた様子で「申し上げる言葉もない」と語っただけ。国民向けのコメントやソウル市南部の自宅に移ることに手をつけられなかったという。
 失職後も青瓦台にとどまり、コメントも出さない状態に批判の声が上がり、野党各党は11日、朴氏が早期に憲法裁の宣告に従う立場を表明するよう相次いで求めた。大統領府関係者は11日、「大統領府を去るにあたって直接メッセージを出すかどうか依然はっきりしない」と語った。


 おもえば、これほどかわいそうな人もいない。娘時代に母と父を相次いで殺され(凶行の犯人は他国のテロリストではなく、いずれも自民族)、失意の中、言葉巧みに接近してきたのがいかがわしい自称霊能者で、すっかりそれに依存するようになったが、その男は父・朴正熙の権力を悪用して私腹を肥やし、娘も広告塔に利用して、いつのまにか宗教家兼実業家になりおおせた。そうした中で実の姉妹同然の関係になった霊能者の娘が、崔順実(チェ・スンシル)で、この娘も父親同様、大統領権力をほしいままに利用するようになったのです。

 崔順実は絵にかいたような「馬鹿親」で、一人娘を溺愛して、器量がよくないのは遺伝だから仕方がないとしても、箸にも棒にもかからない品性下劣な馬鹿娘に育ててしまい、不正に高校卒業資格を得させただけでは収まらず、推薦規定まで変えさせて名門女子大に不正入学させ(これが「受験地獄」に苦しむ韓国の若者たちを激怒させた)、重要争点になった二つの財団の設立も、元々はわが子の乗馬支援のためだったというのだから呆れるのです。限りなく次元が低く、同時に権力的なものに弱くて、その要請がどれほど不正かつ理不尽なものでも、「上の意向」とあればたやすくなびいてしまう韓国社会の体質も露骨に示した。

 政治家たちも、「元大統領の娘」「悲劇のヒロイン」の利用価値に気づいて、これを看板にして票集めに利用した。韓国社会のつねとして、朴正熙大統領暗殺直後はお得意の「手のひら返し」でその功績を全否定し、「凶悪な独裁者」としていったんは葬り去ったが、その後、

「漢江の奇跡」と呼ばれる高度経済成長により、大韓民国を中華民国(台湾)・シンガポール・香港と並ぶ「アジア四小龍の一つ」とまで言わしめることとなる足がかりを作ったことや、軍事政権下の治安の良さを再評価する動きが出て来た。
 特に政敵であった金大中が、1997年大統領選挙を控えて保守票を取り込むために朴正煕時代の経済発展を評価するに至って、韓国近代化の礎を築いたという声が高まった(ウィキペディア)


 というわけで、甚だご都合主義的な動機によるものながら、再評価の声が高まり、独身のままだった娘の朴槿恵は、「国家と結婚した女性」などと呼ばれて、ファンタジー好きの国民から、「国家・国民のための身を捧げる無私の女性政治家」のイメージを付与されて祭り上げられ、ついに大統領に当選したのです。

 簡略化すれば以上のような経緯ですが、狭量だということを別にすれば、ご本人が何か積極的な悪事を働いたというような形跡は見られないので、「姫」特有の妙に純粋な人柄が災いして、周りにいいように利用され、最後は最も不名誉なかたちで「社会的な死」を宣告された。そう言えるのではないかと思います。

 日本との関係でも、大統領当選当初は朴正熙元大統領の娘さんだというので、日韓関係の改善が期待されましたが、慰安婦問題などで一方的な「言いつけ外交」に終始し、「恨みは千年たっても忘れない」などと言い、日本が過去の歴史を美化してやまない安倍ネトウヨ政権だったのも災いして、両国の溝はかえって深まってしまいました。それがあるときからパッタリ言わなくなり、そこらへんの連絡がどうなっているのか不可解ですが、日韓慰安婦合意も成立し、一息ついたところでスキャンダルが噴出したのです。あちらでは2014年4月の「セウォル号沈没事件」の際の“不適切な対応”あたりから本格的に評判は悪くなり始めたようですが。

 彼女がもし「ふつうの家庭」に生まれていれば、お勉強は人並み以上にできたようだし、「プルトン(不通)」と呼ばれるコミュニケ―ション下手のその性格も、「少し引っ込み思案」ぐらいで、さして大きな欠点とはみなされなかったでしょう。両親を暗殺でなくすというような体験は深刻なトラウマをその人に残すはずで、彼女の孤立的なパーソナリティにはそれが大きな影響を及ぼしているのかも知れません。人が信じられなくなり、その反動として、崔父娘のような親身にしてくれた相手には、無条件にもたれかかってしまう。ところがそれが、ロクでもない人間だったのです。

 孤独な元お姫様は今頃、「私がどうしてこんな辱めを受けねばならないのだ?」と自問しているかもしれません。国家のために奔走した父と母を殺され、自分も私心なく政治に挺身したつもりだったのに、最後は「罷免」という最も屈辱的なかたちで大統領府を去るのを余儀なくされている。要するに自分は人に利用されてきただけで、国民もあれほど歓呼の声を送っておきながら、今は極悪人のように言う。この国は政治も人民も恐ろしい。一人でそう呟いているかもしれません。それが「正義」だと言うが、大方は私利私欲のかたまりで、民衆にしてからが、持ち上げるときも弾劾するときも、欲求不満のはけ口に自分を使っただけではないのかと。「謝罪」しろと言うが、誰に向かってそうしろと言うのか?

 次期大統領選は5月初旬に行われる見通しだそうですが、目下の最有力候補は最大野党「共に民主党」の文在寅・前代表だそうで、これに前にここで「気持ちの悪いナルシシスト」と書いた同じ党の安熙正・忠清南道知事が続く、という構図になっているようです。どちらも「愛国左派」だから「反日」で、また、韓国では反日でないと集票できないそうなので、保守派でも「反日」をアピールせざるを得ないが、文在寅候補の場合にはそれに加えてかなり露骨な「親北・従中」だと言われていて、金正恩との「対話」を提唱し、中国が反対している米軍の最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の配備計画(すでに配備は始まっているそうですが…)は延期するという「非現実的」な対応で朝鮮半島情勢をいっそう不安定化させかねないと見られています。今の北朝鮮は末期のオウム真理教みたいなもので、核武装だけでなく、大量の化学兵器を備蓄していると伝えられているので、そうした対応は北に時間稼ぎの口実を与えて事態をさらに悪化させるだけではないかと思われますが、悲惨で醜悪な内部紛争の歴史にもかかわらず、他国人には理解しえない強い「民族自尊」信仰があって、北への親近感、信頼感は今も彼ら左派の間では健在であるようです。

 実際にはアメリカさんのご機嫌伺いもしないと国がもたないので、どうするつもりか知りませんが、こういうふうに感情で動いて自らややこしい状況を作り出して思うに任せず、「内なる恨」を強化してしまうのも韓流政治家の特徴の一つです(それは地政学的な理由だけによるのではない)。日本とも敵対一辺倒では具合が悪いということで、「恨み」を抱えたまま「仕方なく」妥協して見せるというポーズを取り、事あるごとにその「恨み」を噴出させてバランスを取る、というややこしい対応で臨んでくるでしょう。それは生理レベルの反応から出てくるもので、ご本人には自覚されていない。前にも書きましたが、神経症患者のメンタリティと同じで、こういう人(国)相手には、「問題が片付く」ということは決してないのです。

 韓国内部でもそれはつねに対立・分裂として表われるのですが、朴槿恵さんはこういう国で政治家となり、大統領となったのだから、務まらなかったのも道理です。ふつうでも大変なのに、あの性格では無理で、結局はそれに振り回されるだけに終わった。韓流歴史王朝ドラマ風に言えば、両親を殺害され、父王は暴君だったと言われて、石もて王宮を追われた人一倍純な性格の公女(姫)を霊能者父娘が支え、「あなたはいずれ王宮に返り咲いて、必ずや女王になる!」と励まし、その通りになったが、じつはその「家族以上」の父娘が一番とんでもなくて、私利のために大統領権力を悪用、それが原因で今度は自らが民衆の罵声を浴びる事態となり、王位を剥奪されて「平民」に降格されることを余儀なくされたのです。

 おそらく今後は、自身が手厳しい検察の取り調べを受ける羽目になる。自己責任、自業自得と言う人もいるでしょうが、その波乱に満ちた不幸な生い立ち、上に見た韓国社会の病的とも言える特殊性を思い合わせると、朴槿恵さんに僕は同情を禁じ得ないのです。
スポンサーサイト
プロフィール

大野龍一

Author:大野龍一

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR