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トランプという名のジョーカー

2016.11.10.17:16

 大学受験生なら、「トランプをする」はplay cardsだと知っていると思いますが、trump というのはトランプの「切り札」のことを指します。たぶんそこから、「トランプ」という和製英語はできたのでしょう。

 今回のアメリカ大統領選ではジョーカー(joker)だと思われていたものが実は勝負を決める切り札(trump)だったということになってしまったわけで、今回のお題のようなおやじギャグも成立するわけですが、僕もこれは予期していなかったので驚きました。ヒラリーがいかに不人気でも、例の「私用メール」問題があっても、まさかトランプ相手に負けるとは思っていなかった。よく考えてみれば、ブッシュ・ジュニアみたいな奴でも大統領にえらんでしまう国なのだから、可能性は「十分あり得た」のですが。

 向こうのメディアの選挙予測も大方はクリントンになっていたのに、なぜこうなったのかということに関してはあれこれ言われていて、粗野で下品で、レイシストのトランプ支持だなんて恥ずかしくて口にはできない雰囲気があって、でも実際には共和党支持だからトランプに投票するという「隠れトランプ支持」の多さを見誤ったのだという説が有力です。

 僕が読んだ記事の中では、次のAFP通信(フランス)のものが一番面白かった。

「悪夢」「ブレグジットよりひどい」 トランプ氏当選、世界に衝撃

 この記事の中の、

 英学者のマシュー・グッドウィン(Matthew Goodwin)氏はツイッター(Twitter)で、「私たちは再び、白人で低学歴、大部分が労働者階級に属し、主流派政治から取り残されて世界市場に脅かされていると感じ、急速な民族的変化に大きな不快感を持つ人々の不満と怒りの深さを理解することに失敗した」と指摘。

 という箇所は、「なぜこうなったのか?」という事の本質を衝いていると思いますが、「英学者」では何の学者かまるでわからないので調べてみると、political scientistとあるので、このマシュー・グッドウィンという人は政治学者のようです。
 ツイッターの原文(11月9日付)は次の通り。

・1/2 Once again we have collectively failed to grasp the depths of frustration & anger among white, less well educated & often w.class voters
・2/2 who feel cut adrift from mainstream politics, under threat from the global market & profoundly uncomfortable with rapid ethnic change

 訳文はおおむね正確なものであることがわかります(w.classはworking classの略)が、そうした白人層と違って、黒人やヒスパニックの人たちは大部分が民主党支持です。しかし、彼らはオバマの時と違って、投票所に足を運ぶ人が少なかった。ヒラリーにそれだけ魅力がなかった(オバマ政治への深刻な失望とも関係する)からですが、これに対してトランプは、増大する一方の「怒れる」白人低所得者層と、従来からかなり多く存在する差別主義者たち(こちらは金持ちにも少なくない)の圧倒的な支持を得ていた。これに「共和党支持だからトランプでも仕方がない」層の消極的支持も合わせると、僅差でも勝てるだけの条件が整ったのです。

 今のアメリカは、子供の世代が親の世代を下回る社会的地位と年収になる確率が高くなっていて、アメリカン・ドリームは完全に過去の話になっているということが統計的にも裏付けられていますが、それだけに既成政治に対する不信と幻滅は深くなっている。ヒラリーの場合だと、エスタブリッシュメント臭丸出しで、カネまみれ、欲まみれのクリントン財団を夫と共に運営している「金ぴかのヤなばあさん」以外の何者でもないので、魅力があろうはずはない。「チェンジ!」を合言葉に当選した初の黒人大統領オバマも、「実態はウォールストリート政権の継続」でしかなかったので、かつてヒトラーが第一次世界大戦で敗北して、巨額の賠償金の支払いでプライドも生活もズタズタになったドイツ一般大衆のネガティブな感情と怨念にうまくアピールしたのと同じで、トランプも没落一方のアメリカ白人層のそれにうまくアピールしたのです。そういう場合、粗野で下品で、過激であることはむしろプラスに作用する。「反知性的」であればこそ仲間意識と共感ももてるので、「偽善的なエスタブリッシュメント政治をぶっこわす」破壊力はトランプのような男でないともてないと彼らは考えた、というより「感じた」のです。

 現実にはどうなるか? 彼らの願望はまたも満たされないことになるでしょう。トランプは元々具体的な政策の提示には乏しくて、言うことも相互に矛盾していたりして、ええ加減そのものなので、悪賢いブレーンや企業家たち、ウォールストリートがこれをうまく操ろうとして、そこにどういう面子が集合するかによって決まってしまう。何か「トランプらしい」ことをしようとすれば、それはブッシュの「ブッシュらしさ」が対アフガンとイラク戦争であったのと同じで、その「らしさ」の発揮が「世界の不幸」ということになりかねない。

 言いうることは、トランプのような男を大統領に当選させたのは、腐敗しきったアメリカのエスタブリッシュメントだったということで、その「ツケの支払い」がトランプ当選というかたちをとったのです。が、本格的な「支払い」はこれからで、僕はそれが吉と出ることはほとんどないと思いますが、今のアメリカ大統領の権力の弱さと、派手なパフォーマンスの割には「おとなしい」かも知れないトランプの性格のおかげで、「大凶」とまではならなくてすむかも知れません。その場合、大した変化はなくて、トランプ支持層の願望は何も満たされずに終わるということを意味するのですが。

 日本との「同盟関係」はどうなるのか? こちらもたぶん変わらないでしょう。トランプは「世界の警察官はやめる」と明言していて、それは中国とロシアにとっては好都合ですが、日本に対して「おまえらが勝手にやれ」といえば、わが国は防衛力増強と核兵器の開発・所持へと突き進む結果になるでしょう。それについてとやかく言える理由は何もなくなる。共和党のタカ派ですらそれは望まないことで、だからそんな極端な話にはならない。

 移民排除やイスラム敵視政策も、アメリカにプラスをもたらすことはないので、トランプ政権は自重せざるを得ない。やったとすればトランプは本物の馬鹿だったということになりますが、そこまで無分別とは思えないので、従来の路線を大きく外れることはないでしょう。

 しかし、歴史にはヒトラーのような例もある。今の世界はどこかでボタンを一つ掛け違えると、ドミノ倒しのような負の連鎖がいつ起きても不思議ではない状況です。その意味でトランプのような扇動政治の手法に頼る人物が超大国の大統領になったというのは、確実にリスク要因が増えたことを意味します。そういう時代に対処できるだけの忍耐と柔軟性、叡知と洞察力を備えた政治家が世界にどれだけいるのか、覚束ない気がするのは僕だけではないでしょう。
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