第三次世界大戦が絵空事ではない理由

2016.07.15.16:16

 もうだいぶ前ですが、僕はここに、「中国はだんだん戦前の日本に似てきた」と書いたことがあります。同じ趣旨のことを、先日のハーグの仲裁裁判所の判決に対する中国の反応を受けて、ジャーナリストの長谷川幸洋氏が現代ビジネス電子版に書いておられたので、ご紹介しておきます。

ついに中国は戦争への道を歩み始めたのではないか、という「強い懸念」~戦前日本を思い出す

 最後の「日本の新聞やテレビはおずおずとして、はっきり言わないから、私がこのコラムで言おう。いま中国は戦争への道を走り始めたのではないか。まさに『歴史は繰り返す』である。そうならなければいいが、ならない保証はどこにもない」は意味深長ですが、これは今回の参院選で憲法改正発議に必要な三分の二の勢力を確保した安倍政権には追い風でしょう。断末魔の金正恩北朝鮮の危なすぎる火遊びとも相まって、「このままでは国家の存続が危機にさらされる」と不安を煽って、ドサクサ紛れに自民党のあのお粗末な憲法草案を国民に呑ませる好機です。その「改正」内容を細かくチェックする有権者など十分の一もいないから、気分で支持し、国民投票の過半数を得て、安倍政権は憲法改正を実現する。

 アメリカも、次期大統領がヒラリーであろうとトランプであろうと、自国の利益第一のタカ派である点では同じだから、事態を緩和の方向に導くことはまずなさそうです。EUもイギリスの離脱で本格的にガタが来ているし、中東のカオスは周知のとおり。世界同時不況には出口が見えず、相変わらずグローバル企業と金融業界が政治を支配し、その利益中心で事は進むから、格差は拡大しこそすれ、縮小に向かうことはない。民衆の不満と憤りは募る一方ですが、デマゴーグたちはそれに意図的な「誤った理由づけ」を行い、排他的ナショナリズムを強化して、外部に敵を見つけるように仕向ける。あとはきっかけだけです。ちょっとしたボタンの掛け違えでドミノ倒しが起き、気がついたら世界戦争になっていて、貧乏な若者たちから順に戦場に送られて、泥沼にはまり、エスタブリッシュメントたちの子弟も徴兵忌避はもう不可能だという段階に達して、「これでも元も子もない」ということで、やっと停戦合意が行われる、というようなことになるでしょう。その段階で、世界人口の五分の一から三分の一程度は失われているでしょうが、早い段階で原発の破壊と大規模な放射能漏れなど起きれば、事態はいっそう深刻ですが、戦争そのものは早く終わるかもしれません。

 昔、ソ連の共産党幹部の深刻な腐敗ぶりは「赤い貴族」として西側に報じられましたが、共産主義思想に基づく非能率な生産システムのおかげで、経済規模そのものが大して大きくなかったから、その汚職ぶりもまだ可愛いものだったが、今の中国共産党の場合、経済は資本主義なので、その腐敗の度合いもそれだけ派手になる。国民全体のモラルも、一気に欲望を解放してしまったものだから、たんなる銭ゲバみたいな人が多くなりすぎて、とても「仁と礼節の国」だったとは思えないほど低い。資本主義がいくらかでも健全に機能するためには「公平な競争のルール」が必要だが、そんなものはない。古いものの中で儒教倫理は失われても、情実とコネがモノを言う東アジア的後進性は丸残りなので、不正と汚職がはびこり、習近平がいくら「ハエも虎も叩く」と言っても、モラルのない役人たちにとってはたんに腹立たしいだけで、そもそも習近平自身がクリーンではない。つかまったら「運が悪かった」と思うだけで、べつだん道徳的反省なんてものは起きないのです。

 そんな中で地方と都市、もたざる者ともてる者の経済格差は極端になって、数の上ではもたざる者の方が多いから、不満は鬱積する。人民解放軍とは実は人民抑圧軍で、中国の軍備は自国民の大規模暴動を恐れて強化されている側面があるのだろうと、僕は前に書きました。少なくともそれは権力者心理からすれば当たっている面があるでしょう。

 習近平政権はそこで、愛国的ナショナリズムで求心力を高めると共に、領土を無理じいにでも拡大して、内部矛盾はそのままに、パイの拡大によって貧乏人へのおこぼれを増やし、不満をなだめようとする。それが今の中国という国家のありようを決定しているのだろうと、僕は思います。むろん、議論を単純化すれば、ですが。

 こういうのは今のアメリカ経済やアベノミクスなどでも基本的に似たようなもので、いびつな富の集中と格差拡大の根本原因には目を向けず、経済成長でパイを大きくすれば、貧乏人にもおこぼれがあって、不満をなだめられるだろうと考えているのです。いわゆる「トリクルダウン説」で、経済学的に言っても何の根拠もない説だという話ですが、アメリカでも日本でも、国家権力は富裕層の傀儡政権なので、必然的に富の一極集中ばかりが進む結果になるのです。コバンザメみたいにそれにくっついて保身を図ろうとする知識人とマスコミがそれに尤もらしいこじつけをして、事態をわかりにくくしているのですが。しかし、そんなもので効果が上がるはずはないので、「財政出動」と称して、赤字国債でいりもしない土木工事なんかを増やして、波及効果はごくわずかなものにすぎないが、その場を取り繕おうとする。何、赤字国債なんかいくら増やしたって大したことはない。それは「国民全体の借金」として、いずれ一般庶民の肩に担わせられるので、エスタブリッシュメントの懐は痛まないのです。

 結局のところ、発火点はどこになるか知りませんが、どこでも権力ひいては社会が、本気で問題に取り組まず、事態を悪化させ、その上で他に責任を転嫁することになるので、そこから戦争は不可避の情勢になる。実は全然美しくない「美しい国」を守るために、政治的美辞麗句に酔い痴れながら、わが国もいずれ「正義の戦争」を戦うことになるでしょう。憲法改正で、自衛隊を国軍に昇格させ、非常事態規定の新設などで、「臨戦態勢」の印象を外部に与え、それが中国共産党内のタカ派と、中国軍の主戦派を勢いづけ、それも戦争の一因になったと、後で歴史家が解説してくれても、意味は何もないわけです。

 しかし、まあ、今の中国が戦前の日本と同じ自滅的な思考のループにはまりかけているとするならば、それを押しとどめることは難しい。人間は何と愚かな生きものであるかと、僕は嘆息するのみです。かの国の指導者たちに歴史に学ぶ謙虚さがあってくれればいいのですが、にわか成金の心理と同じで、急激な経済成長で「経済大国」となった、十三億の人口を擁する国の指導者にそのようなものを求めるのは、よほど器の大きな人ならともかく、かなり難しそうです。
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