Disappointed!

2015.02.01.20:08

 後藤さんの件、残念ながら最悪の結果になってしまったようです。ヨルダン政府は、国民感情からして当然のことながら、捕虜になった自国のパイロットの安否が確認できるまでは要求された死刑囚の釈放には応じられないと言い、交渉は膠着状態に陥っていると伝えられていましたが、ひょっとしたらそのパイロット(写真しか見せなかった)はすでにこの世に存在せず、だから「イスラム国」は話し合いに応じられないのではないかという疑念をもっていた人は少なくないでしょう(交渉の最中に誰もそんな話はできませんが)。

 後藤さんとそのパイロットをペアにして解放交渉に臨んだから失敗した。しかし、ヨルダン政府の立場からすればそれしか方法はなかったわけで、誰もそれを非難することはできません。そもそもの初めから、日本政府は独自に「イスラム国」と交渉する窓口を何ももたなかったのですから(一番有力そうに見えたのは、自身がムスリムでもある中田考・元同志社大教授でしたが、「イスラム国に親和的すぎる」と見て、政府ははなから氏に依頼する気はなかったようです)。

 後藤健二さんが「重要な人質」であることは「イスラム国」も理解しているだろうから、交渉が長引いたからといってすぐに手をかけるような真似はしないだろうという希望的観測は裏切られました。新たに発表されたそのメッセージも激烈なものです。その最後はこう締めくくられています(英字新聞の記事から引用)。

“Abe, because of your reckless decision to take part in an unwinnable war, this knife will not only slaughter Kenji, but will also carry on and cause carnage wherever your people are found. So let the nightmare for Japan begin.”

(安倍よ、勝ち目のない戦争に参加するというおまえの向こう見ずな決断のせいで、このナイフはケンジを無残に殺すだけではない、おまえの国民が見つかるところにはどこへでも行って、大虐殺をひき起こすことになるのだ。さあ、日本にとっての悪夢が始まる。)


 これはもう、マフィアの脅迫そのものです。「イスラム国」の内部にも対立があるようだという報道もありましたが、アメリカとその有志連合軍による空爆が続く中、焦りが募って、態度はいっそう硬化していると見ることもできます。しかし、いずれにせよ、このメッセージで日本国内に政権反対論が強まると想定しているのなら、それは完全な読み違いというもので、「許しがたい!」ということで、「テロとの戦い」に慎重な世論はすっかり影が薄くなり、逆に「対イスラム国の有志連合にもっと積極的にコミットすべし」というタカ派の声が勢いを増すかも知れません。そうなると米英に利するだけです(キャメロン英首相は31日、声明を出して「『人命を一顧だにしない悪の権化』だとイスラム国を強く非難し、イスラム国の壊滅に向けて一緒に取り組むよう日本に呼び掛けた」と産経記事に出ています)。

「イスラム国」が「十字軍」と呼ぶ対イスラム国征伐軍とイスラム国との戦いがこの先どれくらい続くのか、半年なのか、十年に及ぶのかわかりませんが、それによってこの先、どれほど多くの無辜の市民が殺されることになるのか、それを思うと暗澹たる気分にならざるを得ません。

 そもそもの話、「イスラム国」を壊滅させることができたとしても、中東に平和は戻らず、世界に拡散したテロが下火になることも期待できないと思われます。軍事力によってではなく、辛抱強い話し合いによって問題を解決する方途を探るしか道はないと思うのですが、今、現実に見えるのはエスカレートする「暴力の応酬」だけです(今回の事件で目立たない扱いになっていますが、ウクライナ情勢も戦闘が激化して、深刻さを増している由)。

 西洋にはコンスピラシー、「陰謀論」が根強くあって、それには荒唐無稽なものも少なくありませんが、こういう状況を見ていると、陰謀論者でなくとも、どこかに黒幕(超国家的な)がいて、それが世界規模での対立と相互殺戮の絵図を描き、そうなるよう裏で仕向けているのではないかと疑いたくもなります。現在の状況は2001年9月11日のNYテロ事件を本格的なきっかけとして生み出されたものだと言えると思いますが、あのテロ事件そのものが不可解な謎を秘めたままで、本当のところはよくわかっていないのです。

 現実を、手近な利害関係と、目の前の対立の図式でしか見ることができない人は、自分が操られていても、そのことに決して気づきません。空想だけで「陰謀」についての妄想をたくましくするのは愚かだとしても、人間がたやすく操られる生物であることを知り、自分たちの行為が全体の構図の中で何を意味し、どのような結果に結びつくかを冷静にシュミレーションする能力は、手放してはならないものでしょう。Intelligenceという英語に「知恵」や「知性」以外に「諜報活動」の意味もあるのは、諜報活動が本来はそうした知恵に基づいて情報を読み解くものであるからでしょう。

 今の安倍政権にそうしたintelligenceはあるのか? 進んで「操り人形」になり、そのことには無自覚に国民全体をそれにつき合わせてしまうのは迷惑な話ですが、彼にはその傾向が顕著に認められます。なかば強迫観念と化しているらしい例の集団的自衛権にしても憲法改正にしても、それが誰の利益になるかを考えれば、そのあたりわかりそうなものです。仮に彼が「確信犯」的にそれを行っているのだとすれば、そういう男に総理の座を与えていることの危険性を、日本人は明確に自覚すべきです。

 今回の日本人人質事件の不幸な結末で安倍政権を非難する声はほとんど出ないでしょう。相手の「イスラム国」のやり口が非道すぎたからです。しかし、これをタカ派路線の強化の口実に利用する動きが出た場合には、僕らは自分の身に備わったintelligenceに照らして、それに明確な反対を唱えねばなりません。アメリカ流の独善的な「テロとの戦い」が事態を悪化させこそすれ、何らよいものをもたらすことはなかったのは事実であり、それに無思慮に追随することの愚かさは明らかだからです。

 おそらくはそれが「戦争の惨禍」を訴えていた後藤健二さんの遺志に報いる道でもあるだろうと思います(お母さんと、幼い二人の娘さんを抱えた奥さんには、お気の毒で申し上げる言葉もありません。しかし、テロと戦争に明け暮れるイスラム国にとっては、それは無数の殺人の一つにすぎなかったわけで、感覚をマヒさせ、人の命をそうまで安価なものにしてしまう戦争の状況と、それをつくり出す力こそ憎むべき悪です)。

【追記】NHKスペシャル「追跡『イスラム国』」見ました。最近僕はこの手のNHK番組を見るとき、「皆様のNHK」から「安倍様のNHK」になったことの確認を無意識にしてしまうという悪い癖がついてしまったのですが、二人の記者のコメントなど、安倍政権に対する露骨なお追従のような感じで、配慮に満ち満ちていました。この分では編集にも同じ趣旨からの手がだいぶ加わっていたのでしょう。ニュースだけでなく、ドキュメンタリーにまで政権への「思いやり」がにじみ出るようになったのではおしまいです。AHK(安倍放送協会)と名称を変えて、視聴料の強制徴収はもうやめにしたらどうですかね? 中に出てきた「米国の計算違い」の話にしても、昔のNHKのドキュメンタリーなら、それ以前の米国のイラク戦争の不透明な動機から説き起こしていたはずです。「これは入れておきたい」という現場の意地のようなものは二、三、認められたが、「自己検閲」のやりすぎで、失望しました。
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