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この種の事件は防げるのか、防げないのか?~佐世保女子高生同級生殺害事件について

2014.08.06.01:47

 次の日経の記事は、末尾に〔共同〕とあるから、共同通信の配信記事(従って、どの新聞でも文面は同じ)なのでしょう。

【長崎県佐世保市の同級生殺害事件で、殺人容疑で逮捕された少女(16)の親が事件前日の7月25日夕、県の児童相談窓口に電話していたことが3日、県関係者らへの取材で分かった。電話を受けた宿直担当者は「職員は勤務時間外で退庁した」と伝えた。親は名乗らず、相談内容も告げなかったという。
 県関係者によると、電話は7月25日午後6時半ごろ、佐世保こども・女性・障害者支援センターにあった。少女の親は職員の退庁を知ると「月曜にかけ直します」と電話を切った。少女を診察した精神科医の助言を受け、相談しようとしたとみられる。
 この窓口には精神科医も6月10日に電話で相談していた。少女の名前は伏せられていたが、医師は名乗っていた。
 県関係者によると、医師は、小学校時代の給食の異物混入や小動物の解剖、父親への殴打を告げた上で「このままいけば人を殺しかねない」と早急な対応を求めた。担当者は一般的な説明をした一方、匿名だったため具体的な対応は困難と判断したという。
 一方、少女の父親は3日までに、弁護士を通じ「どんな理由、原因でも娘の行為は決して許されるものではない。おわびの言葉さえ見つからない」などと謝罪するコメントを出した。
 被害者に対しては「人生の喜びや幸せを経験する時間を奪ってしまった。苦しみと無念さ、ご遺族の衝撃と悲しみの深さを考えると胸が張り裂ける思い」と記した。〔共同〕】

 事件が起きたのは7月26日だから、親(これでは父親なのか義母の方なのかわかりませんが)が県の相談窓口に電話したとき、犯行は目前に迫っていたわけです。精神科医の電話の方はずっと早かったから、その時点で関係者(親・担当の精神科医・県の職員・入院させられる病院)が協調して動き、強制入院の措置でもとっていれば、防ぐことはできたということになります。

 しかし、これは一応の理屈というだけで、その後弁護士を介して公表された事件の経緯についての書面では、「事件前日、両親が精神科に行き、入院措置を頼んだが、実現しなかった」そうで、その医師(担当の精神科医)は「『個室はあるが独占することになるので難しい。他の病院でも困難だろう』と答えた」とのこと(産経記事による)。

 この医師は、しかし、先には「このままいけば人を殺しかねない」と県の相談窓口の担当者に語っていたわけで、にもかかわらず他にも逃げ腰のところがありあり(こちら←を参照)だったようで、そのあたりは少々首をひねりますが、現実問題として対応が難しかったのはたしかでしょう。全体として言えるのは、周囲の大人が動き出すのが遅すぎたということです。もっとずっと早い時点で、たとえば小6時点での給食への異物混入事件あたりでしかるべき対応をとっていれば、こんなことにはならなかったかも知れません。

 しかし、結論を急がず、少しゆっくり考えてみましょう。一定年齢以上の人は、このニュースを見てすぐ神戸の酒鬼薔薇事件を思い出したのではないでしょうか。今あらためて調べてみると、それは1997年5月下旬のことで、「校門に子供の頭部」というショッキングな見出しのついた新聞(夕刊だったと思いますが)を見て、僕は即座にそれを書斎の奥に投げ込んで、仕事に出かけたことを憶えています(乳児のいる家庭に、こんなもの配達するなという感じだったのです)。当初は「30代の不審者」が疑われたが、犯人は何と僅か14歳の中学生で、これ以外に女児にハンマーやかなづちで殴りつけたり、ナイフで刺したりした余罪があって、計2人が死亡、3人が重軽傷を負った。小学校の頃、美術の授業で脳に見立てた粘土にカッターナイフやエンピツなどを突き刺したとんでもない“芸術作品”を作成して、担当教師がこれはふつうではないと心配して関係者に注意を喚起したこと、猫や小動物の解剖をよくやっていたことなど、似たところがたくさんあります。

 もう一つは、2000年、愛知県豊川市で起きた、「人を殺す経験がしてみたかった」と言って見ず知らずの主婦をかなづちで惨殺した高3生の事件です。「若い人は将来があるからよくないと思って」中年の主婦にしたという、妙なところで分別くさいことを言うこの少年の事件も、やらかしたことの凄惨さと妙な冷静さのコントラストが、その異常さを際立たせていました(今度のケースでは頭部や腕の切断のみならず、「解剖」のために開腹までしていたというのだから、しかもそれが唯一の友達とも言える相手だったのだから、これ以上の「異常」さはありえないほどです)。

 この3人に共通しているのは、深刻な「情性麻痺」または「感情喪失」の症状でしょう。それは先天的な特異性(たぶん、脳に何らかの器質的異常がある)に環境の影響が加わったために生じたものだと思うので、続発するような性質の事件ではないと思われますが、日常生活のちょっとしたやりとり時の反応や表情などにその異常な感じは出ていたと思われるので、見る人が見ればそれは判断がつき、げんに「妙な薄気味の悪さ」を周囲の人に感じさせることは少なくなかったようです。

 犯人の少女の家庭は絵にかいたような「裕福なエリート一家」で、父親は佐世保市の長者番付に名を連ねたこともあるやり手の弁護士、母親は元地方テレビ局勤めの東大出(地方ではとくに希少価値がある)の社会活動に熱心な名士(生前は市の教育委員も務めていた)、兄は父親と同じ私大(週刊文春はそれが早稲田であることを暴露している)の学生で、父と同じ弁護士を目指していた、という話はすっかり有名になっているようです。一家には「東大信仰」のようなものがあったらしく、兄も元々は東大を目指していたものの、届かずワセダになったのであり、少女本人も東大に入って、検事になり、「お父ちゃんやお兄ちゃんと戦いたい」というのが夢だったとか。

 何で父親や兄とわざわざ「敵になって戦いたい」のか、そこらへん何か屈託めいたものがあったのかなと思いますが、なかなかに大変な一家です。父親はすい臓がんで妻が急死した後、喪が明けるのも待たず、コンカツに励み、二十以上も年が離れたハイソな美人と再婚したという話で、そういうのは今の世間にはいくらでもいそうですが、こういう事件が起きたために、妙なところで有名になってしまったわけです。

 僕も塾という商売柄、妙に学歴信仰と上昇志向ばかりが強い教育一家というのには、数は多くないがたまに出くわすことがあるのですが、そういうのはたいてい子供がおかしくなっています。そういう家庭は父親か母親かのどちらかが一家の支配権を握り、子供はその強い“重力圏”から出られなくなっていて、親の意向を自分の望みと区別できないまま育ってきたという印象が強いのですが、おしなべて個性・人間味に乏しく、できそこないのロボットを見ているようで、何か痛ましいのです。

 親が同じ東大出のエリートでも、就職のことを心配して、もっと実際的な学部にした方がいいだろうかと迷う子の相談に、「まあ、人類はいつ滅びるかわからないんだし、君のしたいことをした方がいいんじゃないの?」なんてアドバイスする親は、前に塾の生徒に実際にそういう子がいて、その話を聞いて「君のお父さんは面白い人だね」と笑ってしまったのですが、そういうのなら話は別なので、子供は無用な圧力を感じることなく、伸び伸びしていられるわけです。

 やたら学歴志向、上昇志向の強い一家の場合、心理学でよく言われる「支配的な親」の問題が典型的なかたちで出てきて、それ自体が子供の感情面での発達・成長を妨げる面があるということです(率直に言わせてもらえば、その場合、親その人が「病気」なのです)。それは秋葉原無差別殺傷事件の加藤某にも見られたこと(彼の場合は教育ママの母親)だし、豊川市のカナヅチ少年の場合には、予備校の模試でヘンサチがつねに70以上はあったのだから、間違いなくお勉強はよくできたのですが、離婚して父の側に引き取られたが、その父親の影は薄く、親代わりの“超”がつくほど権威主義的な地方の名士であった祖父の強すぎる「支配」が関係していたように思われます。前にこのブログでも取り上げたことのある、リンゼイさん殺害事件の市橋某の場合も、教育ママパパの願いをわが願いとして国立医学部入学にこだわり、結局果たせず、それが人格の深刻な変異に結びついていった、という側面がありそうです。

 しかし、「支配的な親」の問題が子供の人格形成に暗い影を落とすということは明白でも、通常はそれが猟奇殺人に結びつく、というようなことはない。げんに酒鬼薔薇事件の場合には、そのようなことはなくて、僕はいつぞや彼の母親が書いた『少年A――この子を生んで』という本を読んで、善良ではあるがある種の悪に対する感受性が全く欠落したそのノーテンキぶりを痛ましく感じたのですが、あのケースの場合には、何とも言えない鈍感さと結びついた母親のそのお人よしぶりが、特異な性質をもつわが子が発するシグナル(彼は明らかに環境への適応不能に陥っていた)を無視することにつながっていたのです。

 たとえば、この母親は、わが子が猫の解剖に使ったノコギリの類を、何でそんなものがあるのか、深く詮索することもなしに、町内会に寄付したりといった呑気なことをしているのです。子供に何か訊いて、こうだと言うと、それをそのまま受け入れる。「ああ、これは嘘だな」と思って、しかし、その場は受け入れたふりをするというのならまだしも、かんたんに騙されてしまうのです。そこらへんの嗅覚というか、直感が鈍すぎる。世の中には子供のことは何でもわかっているつもりの親もいて、そんなもの、わかるはずがないので、それは親の側のお幸せな錯覚にすぎませんが、世の中にはわからなくてもいいことと、是が非でもわからなければならないこと、わからなければならない“とき”があるのです。

 佐世保の今回の事件の場合、亡くなった母親はかなりの程度わが子の異常性に気づいていたのかも知れません。幼稚園の頃は、通っていた絵画教室で落ち着きがなく、感情の起伏が激しいので、他の子供たちに避けられて、彼女が来る曜日だけ、「教室はガラガラになって」いたというし、小6のときは、先にも見た給食への異物混入事件を起こしているのです。それも、入れた給食を食べた男子児童に「奇妙な笑みを浮かべながら」近づいて、「わかった?」とたずね、「何?」と不審な面持ちの相手に、「水酸化ナトリウムば入れた」などと平然と言ってのけたというのです(それを彼女は、「理科の先生に理科室の鍵を借りて」持ち出したと説明したというのだから、そういうところもかなり恐ろしい)。「猫を殺して解剖したり、家出したりといった問題行動もあった」(以上、週刊新潮の記事から)といった話も含め、早くから「ふつう」でなかったのは明らかだからです。

 何でもっと早く手を打たなかったのか? エリート一家で、両親は共に地方の名士で、周囲は言いにくかったということの他に、親の社会的体面というのもそれを妨げる大きな要素としてあったのでしょう。東大に入れるほどのものだったかはともかく、成績もいいし、感情面の深刻な問題は、そうして見過ごされた、または「先送り」されたのです。父親は今回の事件以前に、寝こみを娘に金属バットで襲われて、大怪我をし、「身の危険」を感じて、医師の助言もあって、マンションで娘に一人暮らしをさせることになった(体面をおもんぱかって、周囲には「留学準備のため」と説明していた)そうですが、そこまで来てからではもう遅い、という感じがするのです。

 新潮の記事は、母親が亡くなる一、二年前に同居していた祖母も亡くなっていて、塞ぎこんでいたことがあるので、母の死はそれに追い討ちをかけるダブルパンチで、それで不登校になっていたところに、父親はそれから半年もたたないうちにコンカツに励んで、娘みたいな年の離れた派手な東京美人と再婚した。あれやこれやで本格的におかしくなってしまったのではないか、という周囲の見方を紹介しています。

 しかし、ふつうはそういうことがこのような異常な殺人事件に結びつくことはない。やはり本人の特異性ということになりますが、「この少女Aが自分のことを“僕”と呼んでいたという報道」から、精神科医の片田珠美氏は「性同一性障害の可能性」もあると考えているようです。たしかにそれもあったのかも知れません。写真を見ても、妙に「男の子っぽい」感じがして、だからといってそれがこのような犯罪につながるわけでは通常ありませんが、「自分の“性”に対する違和感」が感情の強い抑圧に結びついた、という可能性はあるからです。上に見たエリート一家特有の抑圧要因の他にもそれがあった。

 いずれ精神鑑定が行なわれるだろうから、そこらへん素人が憶測でとやかく言うには当たらないでしょうが、もっと早い時期、幼稚園の頃でなくとも小6で事件を起こしたあたりから“心のケア”に周囲の大人が本腰を入れて取り組んでいれば、遅れた感情面の発達も徐々に改善されて(性同一性障害があったのなら、その問題点も認識されて)、このような痛ましい事件は避けられただろうと思います。お勉強などの遅れはあとでいくらでも取り返せると思いますが、感情面での発達の深刻な遅れは、時期を逃すと非常に困難なものになるというのは、いくらかでも心理学をかじったことのある人にはよく知られたことでしょう。先天的な特異な性質も、環境の手助けがあれば、別の方向に水路づけられて、ハッピーな結果につながることはありえたはずです。

 そういう場合、いつも最大の障壁になるのは、世間体、親の社会的体面のようですが、ほんとに子供の心配をするなら、「そんなこと気にしてる場合か!」ということになって、みっともなくても何でも、親はなりふり構わず行動するでしょう。そうした親の対応それ自体が、子供の心に強く響き、感情を生き返らせ、自他への信頼をつくり出す機縁を生むのではないかと、僕は思うのですが、どうなのでしょう。それも小中学生の時期まででないと難しい、とは言えそうですが…。

(ついでに言わせてもらうと、こういう問題には学校の『心のノート』だの、「いのちの大切さ」についての校長や教師のお説教だのはまるでお呼びでないだろうと思います。そんなものは大人の側の自己満足にすぎないので、何の役にも立たないと言って差し支えないでしょう。「おまえはいつも一言多すぎるのだ」とまた叱られそうですが。)
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