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お次は「国家安全保障基本法」

2013.12.08.19:21

 例の「特定秘密保護法案」、大方の予想どおり「強行可決」されて成立したようです。

 その前に韓国が「東シナ海の防空識別圏を拡大させる方針」を示したというニュースもあって、これに対し、中国外務省の洪磊(ホンレイ)副報道局長は6日の記者会見で、「国際法と国際慣例にかなうものだ」と述べ、反対しない考えを表明した、とのこと。

【洪副局長は「防空識別圏は領空ではなく、海や空の管轄権とは無関係だ。中国は平等、相互尊重という基礎に立ち、韓国側と意思疎通を保ちたい」と説明した】(読売新聞)

 自分が先にいらざるもの(中国側からすれば「国際法と国際慣例にかなうもの」)を設定したのだから、韓国の「拡大」にも反対しないのは当然ですが、これを中韓による「対日包囲網」の形成と見て、わが国では「嫌中・嫌韓」の国民感情がさらに強まり、その裏面はナショナリズムの強化なので、安倍政権の支持率はさらに高くなる、という悪循環に陥るおそれなきにしもあらず、です。自民党はこうした動きを好都合なものとして内心歓迎しているでしょう。

 それにしてもあの朴大統領というのはどういう人なのか、その評判はわが国では悪くなるばかりですが、「国内で親日と思われたくないから反日のパフォーマンスをする」というのとはどうやら違うようで、僕のようなどちらかといえば親韓的な人間ですら、そのしつこい「反日アピール」にはいくらか辟易するようになってきました(今の日本人は先の戦争を正当化する「右翼」ばかりだとでも思っているのでしょうか…)。加えて韓国は経済が、前は日本の円高のおかげで競争力も自然にアップし、鼻息も荒かったようですが、円安に戻るとウォン高ということになって、極端な輸出依存のあの国はガタガタになりかけていると言われ、しかもどうやら朴大統領は相当な経済音痴でもあるようです。それでよけいに「反日」になられても困りますが、これまでの「反日」アピールが強すぎて、わが国では「経済制裁」論まで自民党の一部から出始めているとのこと。

 要するに困った具合に「役者が揃いすぎた」観があって、全部が悪い方向に、対立強化の方向に回り始めているようで、そういう中での秘密保護法の成立です。「いやな感じ」というのはまさにこのことです。

 今の株価の上昇は必ずしもアベノミクスのおかげではなく、国際的な経済情勢にも相当助けられているようですが、経済が不調なら、安倍政権もこんなに強気ではいられなかったことでしょう。早く経済を何とかしろというわけで、秘密法案の強行採決などしていたのでは有権者にそっぽを向かれてしまう。ところが、そうはならなかったので、彼の鼻息の荒さはまだまだ続きそうです。これまでのところ、彼はほんとに運がいい。そのときそのときの外部事情がことごとく追い風になって味方しているという感じで、民主党政権時代とは正反対です。その背後に神がいたのか悪魔がいたのかは、いずれ後になればわかることでしょう。

 国内事情が苦しい中国も韓国も「貧すりゃ鈍する」症候群にかかっているように僕には思われる(なまじ前にいい目を見ているとよけいに病状は重くなる)のですが、日本の場合も同じで、株価が上がったくらいで万事解決というほど世の中は甘くない(じっさい、地方の景気はよくなってませんよ。よくなる理由がない)。福島原発事故も収束にはほど遠く、これに南海トラフ大地震なんか加わったりした日には、二進も三進も行かなくなってしまうでしょう。元々ナショナリズムが強くなった背景には「失われた20年」で日本人の自尊心が深刻に傷ついたという事情があったからで、こちらも間違いなく「貧すりゃ鈍する」シンドロームなのです。

 僕に不思議でならないのは、「日米同盟の強化」が錦の御旗みたいに言われるけれども、アメリカにはすでに昔日の面影はないということです。中韓と日本が対立すれば、アメリカは日本の味方をしてくれるだろうというのは、小学生みたいな“信頼”なので、現実には「等距離外交」で、「まあまあ皆さん仲良くしてください」と言うだけで、ロクな調停能力もない。そう見ていた方がいいだろうと思います。政治家ならその程度のシビアさはもっていないと、大事の際には役に立たないでしょう(むろん、だから自前の軍備を強化しなければならない、という方向に行くのが一番困るのですが)。

 イラクへの自衛隊派兵のとき、国会答弁でその是非を問われた当時の小泉首相(まっ先にあの戦争への支持を表明して世界を驚かせた)が「アメリカは日本への攻撃は自国への攻撃とみなすと言ってくれている。他にそんなことを言ってくれる国がありますか!」と大声を張り上げていたのを憶えています。国際法に無知で正義の感覚に乏しいだけではなく、この程度の国際政治への認識しか持てない男が総理大臣を務めている国にいるのかと、僕はあらためて呆れてしまったのですが、「ブッシュのポチ」と呼ばれたのもむべなるかなで、しかし、そんな男が今でも名宰相の一人だということになっていて、最近は「原発全廃」発言でまた話題になっていますが、絶大な国民的人気を誇ったのです。この国は相当イカれている。いや、世界全体がかも知れないので、国際紛争の解決能力のなさは今やほとんど全面的なもの(シリアなどひどいことになっているようです)で、ボタンをかけちがえると、ドミノ倒しみたいになっていつ第三次世界大戦に発展してしまうか、わからないなと僕は心配しています。

 ちょっと話は横道にそれますが、昨日元役人の友人と電話で話していて、秘密保護法の話になり、「ほんとにあんなものが必要なほど秘密は漏れてるの?」と聞くと、「いや、それはダダ漏れだよ」とあっさり言われてしまったので、笑ってしまいました。彼はだから公務員の秘密保持などはもっと厳格になされるべきだという考えですが、今回の「特定秘密保護法」はあまりにひどすぎるという点に関しては、意見が一致しました。

 じっさい、ああいうのをよいものだと思えるのは、いまだに江戸時代さながらの「お上信仰」をもつ“善良な市民”か、官僚、政権与党だけでしょう。「これにより、防衛、外交、スパイ活動防止、テロ防止の4分野で、閣僚ら行政機関の長が『特定秘密』を指定し、漏えいした公務員、民間人は最高10年の懲役を科される」ことになったわけですが、「恣意(しい)的に秘密指定されかねず、チェック機能も不十分など『知る権利』侵害への危惧は残ったまま」(ウォールストリート・ジャーナル日本版)なのが問題だとされているのです(いくらでも拡大解釈が可能なように「その他」がやたら多いのも問題)。

 参院審議でそこを突かれた政府は、チェックのための第三者機関として「保全監視委員会」だの「情報保全監察室」だのを設置すると言明したそうですが、任命権者が首相なら、御用専門家・学者ばかり集めることになって「叡知の結集」とは程遠く、公正さも担保されないので、何の保証にもならないわけです(安倍政権はすでに日銀総裁の首と内閣法制局長官の首を自分に都合のいい人物にすげ替えるなど、時の政府からの一定の「独立性」を期待される組織の従属性を強めるようなことばかりしています)。

 そして安倍政権は、早ければ来年の通常国会に「国家安全保障法」なるものを提出しようとしているとのことです。
 この問題に関しては、月刊誌『世界』12月号に弁護士の川口創氏の「国家安全保障基本法は何を狙うか」が載っていて、これはよくできた論文だと思うのでお読みいただきたいのですが、正気の沙汰とは思えない悪法です。

 この中の第3条3項「国は、わが国の平和と安全を確保する上で必要な秘密が適切に保護されるよう、法律上・制度上必要な措置を講ずる」の「措置」の一つが、今回成立した特定秘密保護法であったわけですが、この論文に引用されている条文を読んでいると、「よくもまあ…」と呆れるような文言がたくさんあるのです。たとえば、

「国は、教育、科学技術、建設、運輸、通信その他内政の各分野において、安全保障上必要な配慮を払わなければならない」(第3条)

 真っ先に「教育」が出てくるのですが、それに「安全保障上必要な配慮を払わなければならない」とはどういうことでしょうか? 筆者の川口氏は「国防教育を高める教育をする」「愛国心教育を強めていく」ことを意味するのだと述べていますが、それ以外には解釈のしようがない。全く、余計なお世話もいいとこです。僕みたいな「君が代は気持ちが悪い」なんて言う不謹慎な人間が育つ余地がないよう、愛国教育に邁進するということなのでしょうが、それは戦前の教育とどこが違うのか?

 他も大方はこの類で、「国民は、国の安全保障施策に協力し、わが国の安全保障の確保に寄与し、もって平和で安定した国際社会の実現に努めるものとする」(第4条)なんて、押し付けがましいのもここまで来ればご立派と、皮肉を言うしかないようなものまで入っている。
 これ、何で度し難い文章なのか、わかりますか? 僕は「平和で安定した国際社会」を望む者で、だからめんどくさいなと思いながらも(ほんとは哲学の議論でもしたい)、ブログにこんな文を書いているのですが、「国民は、国の安全保障施策に協力し、わが国の安全保障の確保に寄与し、もって…」と前振りがあるので、「国の安全保障施策」なるものに反対する人間は、「平和で安定した国際社会の実現」に反するものだと、勝手に決め付けているのです。そういうのは「非国民」として取り締まりの対象にすべきだと、そういうことになる。安倍晋三の「戦後レジームからの脱却」は「戦前回帰」だと前々から僕は言っているのですが、こういうところからもそれははっきりとわかるのです。

 自衛隊については、こう書かれているそうです。

・第8条
 外部からの軍事的手段による直接または間接の侵害その他の脅威に対し我が国を防衛するため、陸上・海上・航空自衛隊を保有する。
 3 自衛隊は、第一項に規定するもののほか、必要に応じ公共の秩序の維持に当たると共に、同項の任務の遂行に支障を生じない限度において、別に法律で定めるところにより自衛隊が実施することとされる任務を負う。

 憲法改変でこの「自衛隊」は「国軍」になる予定なのですが、それはさておき、「間接の侵害その他の脅威」とは何のことなのか? ブッシュ時代のアメリカ政府は、「イラクは大量破壊兵器を隠し持っている。あんなならず者国家がそんなものをもっているのは脅威だ」と主張してイラク攻撃に突入したのですが、ああいう馬鹿が国家指導者になると、何が「脅威」にされるかわかったものではないのです。その前の9.11テロ事件後のアフガン攻撃そのものが国際法違反の戦争でしたが、イラク攻撃はそれに何倍も輪をかけてひどい。世界最大の「大量破壊兵器」保有国が、自分は「正義の国」だからいくらもっていてもいいが、イラクは「ならず者」なので、「脅威」であり、叩き潰さねばならないと言ったのです。かんじんの「大量破壊兵器」が実は存在していなかったというのだから目も当てられませんが、ブッシュの「テロとの戦い」なるものが結果としてもたらしたのは、両国の破壊とそれに続く周辺国も含む大混乱、そして、国際的なテロ組織の肥大・拡大だけでした。それはそうでしょう。何の罪もない自分の家族が無用な爆撃などで殺されたら、十代二十代の若者なら、リベンジを誓ってテロ組織に入っても何の不思議もありません。入らないまでもシンパは増える。そうやって憎悪の拡大再生産がはかられるのだから、テロリストは増えこそすれ、減るはずはないのです。

 話を戻して、だから秘密保護法で情報統制を敷いておいて、為政者に好都合な情報ばかり流し、「間接の侵害その他の脅威」を誇大に見せかけて、「防衛のための戦争」やむなしという方向に持っていくことはできるのです。国家間のやりとりでは、政治家が国内向けに景気のいい強気のパフォーマンスをぶち上げて、裏では内々に「あれはあくまで国内向けで、ホンネはこちらですから、こじれないようによろしく」と相手国に連絡を入れているなんてことは珍しくないようですが、後者を「ない」ことにしてしまえば、「あれはとんでもない国だ。もう戦争しかない!」という方向に持っていけるわけです。国会議員すらその伏せられた情報は知らないのだから、議会がまともな決定を下すことも不可能になる。

 この条文で気がかりなのはもう一つ、「(自衛隊は)必要に応じ公共の秩序の維持に当たる」という箇所です。川口弁護士はこれについてこう書いています。

「これはいわゆる『治安出動』を指すものであり、国民に対して自衛隊がその実力を行使することを想定するものである。
 たとえば『原発反対』を訴える大規模なデモに対して、『公共の秩序の維持』が必要と政府が判断すれば、自衛隊を『治安維持』のために出動させることが可能になる」

 安倍総理の祖父の岸信介は60年安保の際の首相で、反対デモを警察と右翼だけでは押さえ込めないと、自衛隊に「治安出動」を要請しましたが、拒否されて失敗しました。あのとき自衛隊が使えたら、どんなに心強かったことでしょう。「おじいちゃんの無念」を、彼はこれによって晴らそうとしているのかも知れません。じっさい、この法案が通れば、それが楽々可能になるのです。

 この法律案は全体が、川口氏も指摘しているとおり、「憲法改正手続きを経ることなく、憲法自体を破壊し、日本を軍事中心の国家に変えてしまう」法律です。他にも「集団自衛権」行使を当然のものとみなす条文(第10条)などもあるのですが、そのあたりについては『世界』のその論文を直接お読みください。

 来年それが国会に提出されるとして、またそれも通ってしまうのでしょうか? テロ呼ばわりされても軍隊による鎮圧を恐れることなくデモができるのも今のうちだけかも知れないので、皆さん、この法案が国会に提出された暁には、昔の安保反対デモにまさるとも劣らない大デモ隊を結成して、国会議事堂を取り巻きませんか?(その節は僕も九州から参加に出向きます)。祖父を敬愛してやまない安倍晋三氏に、祖父と同じ経験をさせて差し上げるのです(岸内閣はこの混乱の責任を取って総辞職しました)。安保条約は「自然承認」されたが、今度は法案そのものを潰すのです。警察の機動隊ぐらいは出てきそうだから、衝突に備えてからだを鍛えておかねばなりません。「後期オヤジ」でも、まだやれる! 塾の生徒たちに言えば、「センセは全く…」と憐れみと軽蔑の混じった顔で笑われてしまいそうですが…。
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