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無駄に鋭い

2013.01.06.15:13

 少々遅れましたが、あけましておめでとうございます。
 本年もよろしくお願いします。

 笑う角には福来たる。去年の正月は「女子高生お言葉集」から始めたので、「今年も…」と思ったのですが、日々真面目な受験指導に励むあまり、すっかりそのネタ収集を忘れていました。
 実のところ、女子生徒たちに年末に聞く予定でいたのですが、「センターを目前にして、私らが必死に勉強に励んでいるのに、先生はそんな下らんことを考えてるんですか!」と非難されるのを恐れて、聞けなかったというのがほんとのところです。

「誰も読まないブログにそんなつまらないこと書いてるヒマがあったら、どうしてもっとちゃんとした英語プリントを作らないんですか!」
「そうですよ。先生がいつも作るあれは、選択肢が無駄に紛らわしすぎて、無駄に難しすぎるんですよ。『やっぱりあれは、作る人の性格の悪さがよく出てるよねー』って、みんなに言われているのがわからないんですか! 合格点の人には鉛筆プレゼントなんて言って、ケチだから誰もゲットできないように、故意に間違えやすくしてるわけでしょ?」
「そうそう。よい先生というのは、この時期、易しい問題を解かせて生徒に自信をつけさせるのがフツーでしょ? 何でそんなこともわからないんですか!」

 等々、とんだヤブヘビになって非難の集中砲火を浴びそうなので、聞けなかったのです。彼らはうちの息子と同じで、僕の偉大さを知らないので、学校では「よい子」のふりをしていても、塾では容赦がないので、現実にそのおそれは十分あるのです。

 この「無駄に鋭い」というのも、2年の女子生徒に言われたものなので、教師に対する尊敬心がいくらかでもあれば、このような言葉は決して出てこないはずです。
 それはどういうときだったか? あるとき、僕は一人の生徒の顔を見て、何かいつもと違うなという感じを覚えて、こうたずねたのです。

「君は何か、今日はヘンだね。目が大きくなってない?」
「え? そんなことありませんよ、いつもと全く同じです」
「そうかなあ…。何となく目が大きくなって、宇宙人っぽくなってるような気がするんだけど…」

 絶対にヘンだよ、と僕は言いました。するとその生徒は「へへへ」と笑って、種明かしをしてくれました。コンタクトレンズに仕掛けがあって、あれは瞳の部分にかぶせるようになっているわけですが、それは透明ではなく初めから黒い色がついていて、かつ瞳より少し大きめになっている。それで、目そのものが大きく見えたのです。

 へえー、今はそんなのまであるの、と僕は感心して、じゃあ、外人みたいな茶色や青のも売ってるわけ、ときくと、そうだという。
 そういう話をしていると、その子の隣の席の子が、「センセーって、そういうところ、いつも無駄に鋭いですよね」と“失言”したのです。

「無駄に…って、実は宇宙人が彼女に化けてるってことだってあるかもしれないだろ? 宇宙人ってのは、あのグレイの画像なんか見ても、全部が黒目みたいなんだから」
「ありえませんよ。大体、何で宇宙人が○○ちゃんに化けるわけですか?」
「それは、宇宙人に聞いてみないとわからないけどね。地球人をからかうためだとか…」
「宇宙人って、そんなにヒマなんですか?」
「そうじゃないの? だから地球に来たりするんだよ」
「(ここで別の子がイライラした口調で割り込む)どうしてそういう話になるんですか! 宇宙人は人類に警告しに来てるんですよ。高度なテクノロジーを誇る彼らが、そんなつまらないことするわけないでしょ!」
「でも、高度なテクノロジーが高度でないことに使われることはままあるので、君らがもってるあのケータイだって、結構高度なテクノロジーだと思うけど、つまらないものを見るのに使われてたりするだろ? あれはしかし、夜は外で使うもんじゃないからね。この前も塾の帰りに、そこの角を曲がったら、幽霊みたいに顔が青白く光っている若い子に出くわして、びっくりした。ニヤニヤしてるからよけい不気味だったんだけど、ケータイで何か見ながら歩いてたんだね。その画面の光が顔に反射してああなる。本物の幽霊かと思ったよ」
「だから、宇宙人はそういうノーテンキな人類に警告しに来てるんですって!『ケータイを持ったサル』って本が面白かったって、前に先生も言ってたじゃないですか。宇宙人の場合はそのあたりも人類よりずっと進化してるんですよ」
「しかし、あのUFOってやつは、無駄に飛び回ってるとしか、僕には思えないんだけど。それで騒いでる地球人の姿なんかを生中継して、何光年だか離れた本国の宇宙人はそれをケータイで見て喜んでるだけじゃないの?」
「(ここでまた別の生徒が割り込む)あのう…先生、宇宙人の話はまだ続くんでしょうか? 私、宿題ちゃんとやってきてるんですけど…」

 そういうわけで、せっかくこれから高尚な話に移ろうと思っていた矢先、中断を余儀なくされたのですが、いつもこういうところで終わってしまうから、彼らは僕を誤解するのです。元はといえば突然「宇宙人顔」をしてきた生徒が悪いわけで、僕には何ら責任はないのですが、彼らはそうは思わないわけです。

 それにしても、「無駄に鋭い」とはどういうことでしょう? それではかんじんなことには鈍いみたいに聞えます。かんじんなことには鈍くて、どうでもいいことにだけ鋭いというのでは、まるで馬鹿みたいです。なぜ素直に「観察力にすぐれている」と言わないのでしょう?

 それが気になったので、翌週、僕はその子に質問しました。どうして「無駄に」という無駄な形容語がついているのか、に関してです。

「だって先生は、よく忘れ物をするじゃないですか。『また忘れた!』って言葉を何度も聞きましたよ。プリントなんかでも、どこに置いたかわからなくなって、長いこと探し回って、結局見つからなかったりするじゃないですか? それから、あそこの時計なんか、この前は電池を買ってくるのを忘れて、一週間たっても止まったままだったでしょ?“全般的に”観察力にすぐれた人が、そんなことしますか?」
「いや、それは、高度な集中力をもつ人間にはありがちなことで、些細なことはつい忘れがちになるんだよ」
「でも、これは塾の先輩から後輩に、ずっと語り継がれてる話なんですけど、後ろにも授業が入っているのに、忘れて帰ってしまったことがあったんでしょ? 来たら塾は真っ暗で、『何かあったに違いない』って大騒ぎになったけれども、先生がただ忘れて帰ってしまっただけだってわかったって話ですよ。こういうのって、些細な話なんですか?」
「そういえば、大昔、たった一度だけそういうことがあったような気はするけど、そういうのは『弘法も筆の誤り』みたいなもんでね、僕のような注意力のかたまりみたいな周到な人間でもごく稀にそのようなことは起こるということで、そろそろあれだね、無駄話は切り上げて勉強に入ろうか…」

 後でよく考えてみると、「観察力」と「記銘力」というのは全く別のmental facultyであって、彼女はそれを混同していることに思い当たりましたが、思いやり深い塾教師である僕は、誤りを指摘して無用に生徒を傷つけることを恐れて、話を蒸し返すことは避けたのです。決して自分に不都合な事実が出てくることを恐れたためではないのですが、おかげで「無駄に鋭い」という言葉の意味を解明することはできずに終わったのです。

 そこで、あらためて考えてみましょう。「無駄に鋭い」というのはどういうことか? たとえば人が深刻な苦悩を抱えて深刻な顔をしているのに、かんじんなそのことには気づかず、鼻毛が数本僅かに出ているのに目を止めて、「たまには切った方がいいですよ。今は鼻毛用の小型のいいハサミがありますから」と言って、どこで買えるかを説明し始め、相手を怒らせてしまうような人です。あるいは会社で、皆が忙しくしているときに、喫煙所のタバコの吸殻を細かくチェックしていて、「部長、禁煙したんじゃないんですか? いっときなくなっていたショート・ホープの吸殻がまた出だしたのは、あれ部長のでしょ? しかも最近は本数が増えているので、このままではガンで早死にしますよ」などと、わざわざ部長のところまで親切ぶって忠告しに行くような人です(部下である自分の無能のせいでなおさらストレスが募っているのだということには気づかない)。子供の世界で言えば、友達に、その友達の片想いのA子が冬休みに映画館で誰それとデートしていたという目撃情報を微細にわたって語ったりする少年です。その映画はラブストーリーで、自分はそれを一人で観に行ったのですが、「あいつら、あんなクサい映画をお手々つないでいちゃいちゃしながら、見に行ったりしてよ。ジュースなんか買って手渡したりしてるんだぜ。見てられるかよ」と、誰も見てくれと頼んでもいないのに細かく観察して、その友達の苦しげな表情などにはおかまいなしに話を続けるのです(相手は「こんな口の軽い奴に話したら、一日で学校中に広まってしまう」と恐れるからその秘めた恋の話をしていなかったのです)。そしてついでのように、その友達の第一志望の大学について触れ、「おまえが受ける大学、予備校の最新調査によれば、今年は倍率が上がって、思い切り難化しそうなんだって。頑張れよな!」と言って、激励したつもりでいるのです。

 こういうふうに見てくると、「無駄に鋭い」という言葉は、やはり僕には該当しないものであることがわかります。最近の子供は国語力が低下しているので、自覚なくそのような不適切な使用をしてしまうのでしょう。

 僕がどんなに無駄のない、つねに本質的なことに焦点を合わせた人間であるかはこの一文を見てもよくわかると思うので、今度会ったらこの記事を読ませて、再考を促したいと思います
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