「体罰」または「対生徒暴力」の問題

2010.06.11.16:30

 ついでに、重要な問題なので、こちらについても書いておきましょう。教育現場における体罰の是非については賛否両論あるようで、わが国は先進諸国の中では最もこれに対して寛容(?)な部類に入るようですが、それは親たちの中にも「体罰による教育的効果」を信じる人たちがいまだにかなり多くいて、暴力をふるう一部の教師たちはそれを当て込んで、訴えられることなどめったにないと高を括っているからでしょう。
 しかし、学校教育法第11条には「校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない」と明確な禁止規定が置かれているのです。
 こういう話をすると、「ほんとですか?」と言う人が、親にも子供にもかなり多いのですが、これは事実です。「体罰の是非」以前に、それは禁止されているということです。
 但し、それには処罰規定がない。だから一部の暴力教師(暴力にすぐ訴えるのは、僕の見るところ、どの学校でも特定の教師だけです)はそれをタテマエとしてしか受け取らないのでしょう。だからこの条文には意味がないという批判が根強くあって、たしかに、それなら刑法の規定をそのまま適用した方がいっそごまかしがなくてよさそうです。「傷害・暴力」に関する刑法の条文は以下の通りです。

第204条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
第205条 身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、三年以上の有期懲役に処する。
第206条 前二条の犯罪が行われるに当たり、現場において勢いを助けた者は、自ら人を傷害しなくても、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
第207条 二人以上で暴行を加えて人を傷害した場合において、それぞれの暴行による傷害の軽重を知ることができず、又はその傷害を生じさせた者を知ることができないときは、共同して実行した者でなくても、共犯の例による。
第208条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

 ふつうの人には条文だけではわかりにくいでしょうから、かんたんに説明を加えておくと、たとえば教師が生徒に殴る蹴るの暴行を加え、医師の治療を要するような怪我を負わせた場合は、この204条に該当し、「十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金」という処罰を受ける、ということです。死亡の場合は、「三年以上の懲役」。一見すると、後者の方が軽く見えるかも知れませんが、実際は重くなるので、後者は確実に刑務所送りになり、悪質な場合には無期懲役などもありうる、ということです。
 一番注目すべき条文は208条です。これは「人を傷害するに至らなかった」場合でも、「暴行」をふるえば処罰する、という規定だからです。過去の判例では、「髪を根元から切る」とか、「塩をふりかける」とか、「拡声器を使って耳元で大声を発する」とかいった事例も、これに認定されています。要するに、身体機能を損ねるまでには至らない物理的暴力だけでなく、「相手との物理的接触を欠く」威嚇行為の場合も「暴行」と認められることがあるということです。もちろん、教師が実際に生徒を殴る場合などは、生徒に襲われたためやむなく応じた「緊急避難」的な、または「正当防衛」が認められる可能性がありそうなもの以外は、全部これに該当すると言ってよいでしょう。
 教師がつまらないことですぐにキレて、大声で怒鳴り散らしたり、生徒の目の前で机や壁を蹴飛ばすなどの場合には、「脅迫」に該当するのはもとより、この「暴行」が認定される可能性大です。つまり、「二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」という刑事罰に相当するはずなので、日常的にそういうふるまいをして生徒たちを恐怖させている教師はこれで告訴してしまえばよいわけです。それには「情状」、つまり、そういう行動に出るのが一般の常識から考えて無理もないことだったかどうかも、認定に大きく影響するでしょう。授業で指名した生徒が宿題をやってきていなかったというだけで往復ビンタを加えたり、そういう生徒や居眠りをする生徒がいたというだけで、「おまえらはなっていない!」とあたかもクラス全員のせいであるかのごとく、そこらのものを蹴飛ばしたり、机や壁を殴ったりする教師がもしいたとするなら、それは教師がふつうでない暴力性をもった異常な人格の持主と判断されて、裁判になれば有罪判決を受けることが見込まれます。そうして、悪質と認定されて、仮に禁錮または懲役の刑に服することになると、その教師は学校教育法の「禁錮以上の刑に処せられたものは教員になることができない」という規定に基づいて、自動的に失職する。わが国の場合、そういう事例が少ないのは、アメリカなどと違って訴訟沙汰を好まない国民性のためでしょう。そのため大きな事件を起こすまで、そういう教師は野放しになりやすいのです。

 生徒や親たち、そしてむろん学校の先生たちも、こうしたことはきちんと認識しておくことです。教師も人間なので、言うことを聞かない生徒に腹を立て、殴りたくなることはあるでしょう。しかし、特殊な事情(たとえば荒れた学校で、生徒の方が日常的に教師に対して暴力をふるうなど)でもないかぎり、大方の学校の大方の先生たちは、暴力に訴えることなく適切に生徒指導を行なう能力をもっているので、それができないのなら教師はやめるべきだということです。自分の隠しもった悪感情のはけ口に学校教育の場を利用し、むやみと生徒を怒鳴り散らしたり、暴行まがいのことをするのは、教師としてのみならず、人間としても最低だと言わねばならないでしょう。
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