現代の悪魔~映画『インサイド・ジョブ』を見て

2011.10.17.05:06

 あることについて書いていたら、予期せず“長編”になってしまい、弱ったなと思っているので、先にこちらを書いておきます。
 「悪魔」などと言うと、中世の迷信だと笑われそうですが、僕に言わせると、逆にそういう人は無邪気でいいな、ということになってしまうので、この映画“Inside Job”など見ると、背後に彼の貌(かお)がはっきり見えます。

 それにしても、この映画に出てくるアメリカ支配層の腐敗しきった状況と、福島第一原発で露わになった日本の状況の、何とよく似ていることか。金融業界がその潤沢な資金を使って政治家と学者(大学)、官僚を抱き込み、反対者はその“権力構造体”を用いて片っ端から潰すか黙らせるかし、次々と自分たちに好都合な規制緩和を行わせて、挙句は破綻すると、税金を使って救済させ、経営幹部は責任を取らないどころか、たっぷり退職金をもらって引退する。あまつさえ、金融会社は、投入された税金を“合法的に”自分のふところに入れる措置まで講じて、かえって焼け太りするという始末です。スタンダード&プァーズなどの、日本でもよく名前を耳にする民間の格付け会社にしても、金融業界に飼われているも同然で、例のサブプライムローンなんか、AAA(トリプルA)の最高評価で、破綻直前でもAが二つ並び、後で責任を問われると、「あれは私どものたんなる“意見”ですから」と口を揃えて責任逃れするという有様です(この映画の製作者は、取材を申し込んだが拒否され、その貴重な“意見”は聞かせてもらえなかったと皮肉なコメントを付け加えていますが)。

 リーマンショックは世界経済に激震を与え、貧困層を激増させましたが、アメリカの金融業界はどこ吹く風でさらに強大化し、いつだったか巨額の税金を投入したにもかかわらず、経営幹部の報酬が途方もない額で、それを聞いてオバマが激怒した、というニュースが伝えられていましたが、喉元すぎれば…で、今も“反省”の気配は全くなさそうです。

 僕に興味深かったことの一つは、前FRB議長グリーンスパンの行状で、見た目には思慮深くて公正な“経済の番人”のように見え、そのように評価されてきた彼が、実際はどういうことをしてきた人間か、それがよく説明されていたことです。現議長バーナンキも、お粗末と無責任の“衣鉢を継ぐ”山師でしかないようです。

 Change!のキャッチフレーズで大統領に当選したオバマも、この方面では全然changeを可能にするような人材配置はしなかった(できなかった?)ようで、それは無知によるのか、暗殺を恐れてのものか知りませんが、いかに今のアメリカ大統領が“お飾り”程度の権力しかもたないものかも、よくわかりました。議会で共和党の反対に直面して妥協的になっていた彼も、最近のOccupy Wall Street(ウォールストリートを占拠せよ)の市民デモの拡大を見て強気に転じかけているようですが、それも所詮は選挙対策で、本気で何とかしようという覚悟も意欲もほんとはなくて、外見だけリベラルなたんなる日和見主義者にすぎなかったのかも知れません。

 要するに、今のアメリカ民主主義なるものは“壮大な八百長ショー”にすぎず、事実は金融業界や武器産業などの「死の商人」たちがいいように政治を牛耳っているということです。低脳ブッシュ(共和)から初の黒人大統領、おりこうさんのオバマ(民主)に大統領が代わったとは言え、それは表看板だけの話で、“連続性”はしっかり保たれている、要するに、何も変わっていないということです。デモの参加者たちのスローガンを借りれば、それは「1%」の富裕層の意思と意向によって動いている。「99%」の国民はつんぼ桟敷に置かれて、貯蓄や年金や家や職を失っただけなのです。それは労働力の供給と税金を徴収するためだけに存在するので、昔の奴隷制度や小作人制度とさして径庭はなさそうです。

 翻って、日本の状況を考えてみましょう。「人災」であることが明白となったあの悲惨な原発事故にもかかわらず、逸早く東電救済の措置が講じられ、巨額の賠償に応じても、十年後には黒字に転じるだろうという試算がなされているという話です。さすが東電! これまで政治家にとっても、産業界にとっても、学者、官僚、マスコミにとっても「気前のいい大旦那」として振舞ってきた甲斐があったというものです。この際、仕方がないから代替電力の開発にいくらか予算(それも国民の税金)は投じるが、電力の独占支配という大枠は決して崩さず、東電復活が望ましいと、わが国のエスタブリッシュメントは考えて揺るがないということです。

 2008年の経済破綻に至る道筋と、今年の福島原発の事故に至る道筋はそっくりです。監督機関はその役割を全く果たさず、それどころかグルになって不都合な規制を排除もしくは目こぼしし、その結果、サブプライムローンの破綻、“未曾有”の原発事故が起きたわけです。そして誰も責任は問われない。原子力学会とやらは、わざわざ「個人の責任は問わないように」という要望書を政府に提出したという話です。何より身内の原子力村の学者先生たちを守らねばならないという“責務”に駆られたものだろうと思われますが、責任追及をして人を非難するなどということは「わが国の淳風美俗に反する」とでも言うのでしょうか? 無責任なことを続けて、その間甘い汁は吸っても、その結果とんでもない事態が起きたときは、責任は問われない。何てハッピーな“優しい”国なんでしょう。優しくないのは塗炭の苦しみを味わうことになった福島とその近県の住民と、増税で“痛みを共有”させられる国民に対してだけです。そのあたりも、リーマンショック以後のアメリカとそっくりです。

 先頃玄海原発の“やらせ”のメールや質問で問題になった九電の件でも、第三者委員会の調査報告書は骨抜きにされ、九電は第三者委員会が重視した古川・佐賀県知事の関与には全く触れないお手盛りの報告書を提出し、社長も続投で、体質が全く変わっていないことを世間に知らしめました。ここでも「仲間は守る」という“麗しい道徳”は遵守されているわけで、世間にはテキトーに“恭順”の姿勢を示しておけば足りると考えたのでしょう。アメリカと同じで、政官学財あげての身内のかばい合いで、事態を乗り切り、体制をそのまま温存して巻き返しを図ろうようというハラなのです。

 冒頭、「背後に悪魔の貌(かお)がはっきり見える」と僕は書きました。これでもまだ見えてきませんか? 人間を欲と名誉と権力で骨抜きにし、欲望を満たしてやる代償に魂を奪い去るのが昔ながらの悪魔のやり方です。魂がなければ、良心の呵責に悩まされることもない。他人の苦しみなど、社会がどんな悲惨な状況に陥るかなど、知ったことではないのです。不況でも、戦争でも、彼らはそれを儲けの種にする。アメリカ金融業界の面々は世界経済を舞台にモラルもクソもない危険なバクチに興じて恥じることがない。恥じるのは稼げなくなることだけです。彼らは何も生産しないが、道徳無用のマネーゲームで荒稼ぎすることと、権力の操縦にだけは長けていて、その結果世界がどんな混乱と悲惨に落ち込もうとも、顧慮することがないのです。彼らにとっては言葉も論理もたんなる保身と欲望充足のための方便にすぎないのであって、それが正しいかどうかは問題でなく、そのときどきで“効果的”かどうかだけが問題なのです。従って、その虚偽や隠蔽を指摘し、批判しても、彼らはダメージを受けない。初めから“善悪の彼岸”にいるからです。

 ツノや尻尾をもつ悪魔というのは、白いあごひげをはやした神と同じく、子供じみた擬人化表現にすぎません。悪魔にも等級や領分というものがあって、それに応じた悪さをあちこちで仕出かすのですが、アメリカのエスタブリッシュメントにとりつき、それを操っている悪魔は、小悪魔の類ではありません。正真正銘の悪魔の大旦那だと言ってよい。陰謀論のお好きな向きは、やれユダヤ金融資本だの、イルミナティ、フリーメイソンだのと言いますが、人間が作った秘密結社の類がそうしているのではなく、そうと意識することなく己れの魂を売り払って悪魔の軍門に下った連中がやらかしているのです。仮に彼らがグループを形成していたところで、オカルト映画みたいにそこに人間の姿をまとった魔王がいるわけではなくて、大親分は別の次元にいるのです。従って、悪魔を“逮捕”することはできない。できるのは、人間の世界にいる彼の使い走りを失脚させ、減らして、その勢力を弱めることだけですが、厄介なのはサブプライムローンを組み込んだ例の複雑な金融商品と同じで、今は色々なものに“悪魔印”のものが組み込まれていることで、真贋の見分けが困難になっていることです。気づいたら、自分も悪魔の最下等のパシリをやらされていた、なんてこともありうるわけです。

 まあ、先のブッシュみたいに、品性の下劣さがそのまま顔にも出ている奴が自ら善なりと宣言し、「悪との戦い」と称して、それ自体悪魔の所業に他ならない無益で非道な戦争を始めても、狂信的なキリスト教原理主義者などの一部のアメリカ国民以外、誰も騙されることはない。しかし、グリーンスパンのような、カトリックの司教みたいな尤もらしい顔つきの紳士には騙されるし、権威に弱い日本人は東大教授だの、何とか委員長だの局長だのと聞くと、公正中立で、嘘なんか言わないと思い込むのです。今回の原発事故で、全然そうではなかったのがわかって、そのあたりは僕らも少しは賢くなったのですが、それがわかっただけでは、悪魔の手下どもが勝手なことを続けるのを阻止することはできない。

 問題はそこですが、今は幸いなことにメジャーなメディアは隠蔽に協力しても、インターネットでそれが暴かれるようになった。インターネットは検閲なく個人が何でも書き込めるツールなので、為にする低次元の中傷や根も葉もないデマが少なくないとしても、その中には信頼するに足る真実の情報も含まれる。ウィキリークスのような専門の機密情報暴露サイトも出現しています。今回のウォール街へのデモも、インターネットでの呼びかけに端を発したものだとのこと。わが国でも、大手マスコミは報じなくても、国内の反原発デモや原発関連の勉強会の情報などはインターネット経由で広がります。そのあたりが二十年前、三十年前とは違うところで、その間にエスタブリッシュメントの腐敗の度合いは(これは世界的な傾向のようですが)一段と深まったが、その虚偽や醜い舞台裏を知る手立てももてるようになったわけです。このいわば「カウンター・メディア」の力をどう使うかで、僕ら一般庶民が巨大権力にゲリラ戦を挑み、打撃を与えられる可能性も出てきた。効果的な反攻に転じる前に、世界経済がクラッシュし、大混乱の中で戦争になり(連中はそれでまた一儲けをたくらむ)、文明が全面崩壊へと突き進む可能性なしとしませんが、前ほど無力をかこつことはなくなったわけです。まだ間に合うかもしれない。

 何にしても、この映画は猛烈に面白かった。あんまり矢継ぎ早に色々な問題が出てくるので、素人の僕は二度見直さねばなりませんでしたが、学ぶことは多く、悪魔の走狗と化した連中は、同じような顔つきで、同じような言い訳を並べ立てるものだということがわかって、上に見たような日本の原発関係者との類似点も自然に思い起こされ、ひとしお興味深く感じられました。常習的な嘘つきを見分けるための恰好のテキスト、とも言ってよいかも知れません。

 未見の方は、レンタルDVD店へ行って、ぜひどうぞ。
 参考のため、ここが、映画のオフィシャルサイトです。
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