役人はつらいよ

2017.05.26.15:15

 作家・城山三郎氏が描いた意気揚々たる霞が関の官僚群も今は昔、昨今は「国を背負って立つ」プライドどころではなさそうです。以下、産経の「前文科次官会見詳報」なる記事(註を付け、あとは漢字表記だけ、少しいじりました)より。


・…文科省の、特に国家戦力特区に関わっている職員の人たちは本当に気の毒だと思う。もともと十分な根拠なく規制緩和が行われ、本来、赤信号のところを青にさせられて、その経緯について示す文書について、これがなかったとする。実際にある文書をなかったことにする。いわば白を黒にするよう言われているようなものですから。本意ではない、意に反することをさせられている、言わされている状況が続いている。本当に気の毒だと思う。先ほども申し上げたが、大臣を含めて気の毒だと思う。

 私は辞めた立場なので自由に発言できるし、政権全体のことを考える必要はないという立場で、こういった話で出てきて自由に話ができるわけだが、現在の文科省にはなかなか、官邸、内閣官房、内閣府といった政権中枢の意向や要請に逆らえないという状況があると思う。そういった中で、それぞれが責任のある判断ができなくなっているのではないかと思う。

 これは、〔獣医について〕農水省や厚労省が実質的な人材需要の判断をせず、いわば逃げているが、逃げざるを得ない。彼らが本当に人材需要について検討すれば、人材需要はない〔=獣医学部増設は不要〕ということになるかもしれない。そういう結論を出すわけにはいかないから逃げていると見ることもできる。

 ですから、そういう関係が政権の中枢と各省との間にできてしまっていることは、非常に問題があるんじゃないかなと思っている。

・あるものをないといわざるを得ないとか、できないことをできると言わざるを得ないとか、そういう状況に追い込まれていると私は受け止めております

・――(獣医学部新設計画をめぐる)一連の記録文書にある「総理のご意向」「官邸の最高レベル」という言葉は、あくまでも内閣府の藤原(豊)審議官の言葉ということだが、もし首相の意向がなかったにもかかわらず、審議官が勝手に使ったら大変なことになる。これまでの経験で首相の意向について、嘘をつくとかつかれた経験はあるか

 前川氏「私自身は経験ないです」

 ――そういう文言があったとしたら、それは信じてしかるべきだという前提で読むという理解でいいか

 前川氏「私が目にした文書は、文科省の専門教育課が作ったものでありまして、専門教育課の職員が内閣府の藤原審議官のもとを訪れて、藤原さんがおっしゃったことを書き留めた。そういう性格の文書です。
 私は部下だった職員が書いてあることを聞いてきたのだと。100%信じられると思っておりますので、藤原さんがそういうことをご発言になったということは私は確かなことであろうと思っております」

・前川氏「最終的には内閣府に押し切られたと私は思っていますが、国家戦略特区で規制改革をするかどうかについては、主務官庁は内閣府ですから。内閣府が最終的にそのように判断したのであれば、もう私どもの手の及ばないところであると。致し方がないと。それを受け止めるしかないと」

・もちろん、今回の文書をめぐっては、こういう発言を私がすることによって非常に文科省の中にも混乱が生じるだろうと思っている。文科省としては調査をしたけれども確認できなかったと言っているわけですから、私が(記者会見に)出てきて「それはありますよ」と言うことによって、非常に文科省も困った事態になるということだろうと思っていて、私の後輩たち、私がお世話になった大臣、副大臣といった政務三役の方々に、この件でご迷惑をおかけすることになるかもしれない。その点については大変申し訳ないと思うが、あったものをなかったものにできないということで申し上げたいと思っている。

・――閣議決定を無視してでも、何としても加計学園を通そうとする姿勢は、第2次安倍晋三政権になってからか。それとも安倍政権ができる以前からか。昨年12月22日に3大臣合意で(獣医学部新設を)1校だけだと合意したときに、どうして1校だけで合意することになったのか、当時事務次官として聞いていたか

 前川氏「政治主導や官邸主導は、小泉(純一郎)政権のころから強まっており、徐々にそういう力関係になってきていると思う。政と官の関係、あるいは政府と党の関係、あるいは官邸と各省の関係は、20年ぐらいの間で、かなり変化してきていると思う。その変化の結果として今現在の関係があると思う。今、政権中枢の力が非常に強まっているのは事実だ。



 要するに、官邸が「書類はあっては困る。ないと言え」と言えば、「ありませんでした」と答えざるを得ないのが今の官僚で、今回の件では「初めに加計学園ありき」で事は進んだが、それは社会的公正を害するとか、従来の「獣医学部増設は不要」という判断には合理的根拠があるとか言って反抗すれば自分のクビが飛ぶだけなので、目をつぶって従うほかはなかったということです。

 前川氏は先の文科省OBの大学への不正天下りの件(組織ぐるみでそれを支援し、在職中の就職活動禁止の規定にも触れていた)で、責任を取って事務次官を辞任していたわけですが、誇りも何もそうやって奪われていたのでは、役得で「甘い汁」を吸うことぐらいしか今の官僚に楽しみは残されていないということになっても、さほど不思議ではありません。

 中に、「官邸主導は小泉政権の頃から強まった」とありますが、これまでこの「官邸主導」は肯定的な文脈で語られることが多かったので、それは「前例踏襲で保守的な官僚が前向きの改革を妨害している」というステレオタイプの理解に基づくものです。僕自身は「小泉改革」なるものも評価しませんでしたが、とにかく「官邸主導はよいもの」だとして肯定的に見られてきたのです。

 ところが森友問題でも、今回の加計学園の件でも、それは低次元の「政治の私物化」に利用された。前にも言ったように、それで「韓国並情実政治」が実現し、官僚はそれにも抗えなくなっている、という情けない実態が明らかになったのです。

 安倍内閣の政策でこれまで成功したものはほとんどありません。たまたま巡り合わせがよかったからボロが出ず、マスコミも批判を控えたから「この程度で済んでいるのはアベノミクスのおかげ」という誤解が一部に生じただけで、この政権のネット(正味)は「時代錯誤のウルトラ国家主義内閣」でしかないのです。原発見直しの機運も、このクソ内閣のせいで潰えてしまった。こんな「後ろ向き」の内閣、いくら自民党でもめったにありません。

 それでも政権支持率が5割台を維持しているというのは、マスコミが批判を“自粛”しているという理由の他に、前回書いたような、今の日本社会に瀰漫(びまん)する特殊な心理的要因によるのだろうと思いますが、官僚に話を戻して、今は官僚の最大の供給基地、東大でも優秀層は官僚を忌避する傾向にあると伝えられています。こういう現状ではそれも無理はない。今回の一連の事件報道で、さらにそれに拍車がかかるでしょう。幼稚で無知蒙昧なヤンキー総理夫妻の行政の壟断(ろうだん)にも黙って耐えねばならないというのでは、東大生のプライドが泣くというものだからです。

 今の安倍政治は、だから、「官僚の質の一段の低下」という有難くない“遺産”まで残す結果になるでしょう。イエスマンに徹して出世の階段を駆け上りたいという浅ましい連中が幅を利かせるようになって、「政治の暴走」はさらに加速する。われわれ日本人は「素晴らしい未来」をもつことになるでしょう。

 今のお役人たちはほんとにつらいだろうなと思います。僕は学生時代、霞が関の官僚には「高速事務処理能力」が求められる、という話を聞いたことがあります。プライドの代償に、それに耐えねばならないのだと。「そういうのは東大の連中に任せるにかぎるな」「言えてる。毎日それじゃ、オレたちだと発狂してしまうからな」と不良同士言い合って笑ったことがあるのですが、今はそのプライドも危うくなっているのです。

「こんな馬鹿な話、通せませんね」
「何を言ってるんだ、君。これは例の『昭恵案件』なんだよ!」とか、
「総理じきじきのお達しだから、これがおかしな話だというのがわからないようになるよう、知恵を絞って『正当』らしく見えるように、何とか理屈をこじつけてくれたまえ」

 なんて、上から命令が下るのです。やっとられんわ、こんな仕事、と思わずにはいられないことでしょう。場合によっては、「ニュースに出て、騒ぎになりそうだから、早くあの書類一式、シュレッダーにかけて!」なんて命令が出ることもあるのです。しかし、まだ個人のパソコンには残っていて、どことどこにあるのかわからないので、後から出てきちゃうこともありえますが、と言うと、「政府に不都合なことで検察が動くということはまずないから、家宅捜索の類はないので、『初めから存在しなかった』ということで口裏合わせをしとけばいいだけの話だ」と言われるのです。官房長官も「怪文書」だと仰っているのだから、あれはどう見ても「フツーの役所文書」だが、「怪文書」だと言い張れば、めでたく「怪文書」の扱いになるのだ、云々。

 安倍政権になって、この手の情けないドタバタは一段と増えたことでしょう。お役人たちのプライドと仕事への意欲はズタズタになっているはずです。

 かくなる上は、「内部告発」を増やすにかぎるので、そしらぬ顔してマスコミや週刊誌にリークしまくるのです。そしたら政府には恐怖で、腐れ政権を倒すことができる。あちこちでそれをやれば、処分のしようもないので、先に政権が倒れてしまう。それにお役人としては、政府の不正を暴いただけだから、公僕としての使命は果たしていることになるのです。不正の片棒を担がされて、あるものまでないと言わされているより、それははるかに公益に資するのです。「社会正義の実現」は役人の務めの一つではありませんか?

 ということで、僕はそちらに期待します。前川前事務次官に続け! 真のプライドを回復せよ! 風俗通いがバラされたぐらいでひるんではなりません。僕は学生の頃、新宿駅東口にある「大人のおもちゃ」店で、棚卸のバイトをしたことがあって、そこの店長と懇意になって、棚卸のたびに電話をもらってその効率のいいバイトをさせてもらっていたのですが、仕事の後コーヒーをごちそうになりながら聞いた話がすこぶる興味深かった。顧客には意外や「社会的ステータスが高い」人が多いのだという話で、医者や高級官僚、私学の理事長、弁護士等々、政治家まで、バラエティに富んでいたのです。何でも彼らは日頃威張っていることの反動か、M(マゾ)が多いという話で、そこには商品名『愛のムチ』なんてのがあって、それは「売れ筋」だそうでしたが、そういうので叩かれるのが好きだというのです。プレーの詳細についても聞いて、それは爆笑ものでしたが、別にそれ自体は法に触れるものではないので、皆さんオフではお好きにすればいいのです。前川前事務次官なんかは、こういうのに較べるとはるかに高尚で、「社会勉強」をなさっていたのです(別に僕は皮肉を言っているのではありません)。

 僕は当時、裏街道の人にも知り合いがいた(別にこちらから接近したのではなく、なぜだかその種の人には好かれたのです)ので、政治家にはしばしば暴力団にも劣る奴がいるのも知っています。このへんはときに銀行の方がサラ金より悪質なことをやっていたりするのと同じです。連中がカマトトぶって風俗通いがどうのと言うのはお笑いなので、「あんたみたいな人間に言われたくない」と一笑に付せば足りるのです。

 よって、内部告発はバンバンやるべし。官邸が官僚の私生活ネタを暴露して告発者の信用を害しようとするのなら、官僚は閣僚のそれを暴露して対抗すればいいのです。政治家センセのことだから、それはそんなに苦労しなくても見つかるはずです。たんなる省益や私怨のためにするのでなければ、それは許される。こんな夜郎自大な政権をのさばらせておくのは社会正義に反するので、「無礼な奴には無礼に対応するのが礼儀にかなっている」という文豪ゲーテの言葉に習うのです。

【追記】新たに出たAERAの記事を追加しておきます。

前川喜平はウソつきか? インタビューで答えた“総理と加計の関係”

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