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パナマ文書について

2016.05.11.12:11

 以前、死海文書とかナグ・ハマディ文書とかいうものがあって、これらは砂漠の洞窟などから昔失われたキリスト教の福音書、異端文書が発見されたというもので、その方面にいくらか関心のある僕などには興味津々でしたが、今回のこれはそういうのとは全然別で、古文書ではなく、生々しい現代文書で、「合法的脱税」のために企業や個人がtax haven(heaven「天国」ではない)、日本語で「租税回避地」と訳される地域にお金をひそかに隠していたのが、それを請け負うパナマの法律事務所の機密データが何者かにハッキングされて、ドイツの地方新聞(「南ドイツ新聞」)に送られ、それが端緒で暴露されるに至った、というものです。

 打ち続く世界同時不況の下、生活に苦しむ庶民が増える中で、世界中の富裕層や企業、政治家が税金逃れのためにそのようなエグいことをしていたというのは人々の怒りを掻き立てる原因となり、大騒ぎになったわけですが、その中には日本人、日本企業の名も多数含まれていたのです。

 笑ったのは、安倍御用新聞、日本版人民日報と呼ばれている読売新聞が、「中国関係者が3万人超と突出」と題した記事を掲げ、「やはり中国は乱れている」ということを強調し、最後に次のような「おことわり」を載せていることです。

「パナマ文書」の一部が10日、インターネット上で公表され、日本の企業や一般個人の名前が記載されていますが、読売新聞は現時点では匿名で報道します(自ら公表した分を除く)。
 各国で税制は異なり、日本の企業や一般個人がタックスヘイブンを利用していても、国内で適正に納税していれば、税法上、問題視することはできません。ただ、タックスヘイブンを悪用した租税回避は国際的に問題化しており、今後の取材によって、悪質な課税逃れや、脱税などの違法行為が判明した場合は実名で報じます。


 問題は、「税法上、問題視することはできません」という話ではなく(それではホリエモンの言い分と一緒です)、そうした「合法的脱税」もモラルの観点からすればどうなのかということであって、「国内で適正に納税していれば」と言うが、そちらに隠した分には課税されないからこそ、そのような手段をとるのです。「日本関連」とされているものも約400件あるという話で、有名企業がずらりと顔を並べているようだから、実際はかなりのおおごとです。「他の国はもっとひどい。だから日本の場合は全然問題じゃない」というのは、つかまったこそ泥が、「私みたいな小物は大した件数もやってないのだから、無罪放免にして、もっと大物だけ逮捕してください」と言っているようなものです。

 今回は珍しく籾井NHKも報道しているようで、ネットで検索するとNHKのニュースがいくつもヒットするのですが、別のサイトで「日本企業名・個人名」を見ると、実はNHKも含まれている(=NHK GLOBAL INC.)ので、それでなのでしょう。狙いはたぶん、「悪質なものとそうでないもの」を分けて、わが社の場合は後者なので、だから問題ではありません、というところに話をもっていきたいからではないかと疑われます。

 塾関係の名前まで出ているのは笑えるところで、「東京個別指導学院」なんてのが入っているのです。パナマに教室を開設するなんてことはありそうもない話なので、わざわざそんなことをするというのは、よほどえげつないことをして儲けたか何かでしょう。個人では、元「ひなげしの花」の清純派アイドル、ユニセフ親善大使も務めたアグネス・チャンの名前が出てくる。彼女は今や堂々たるセレブで、わが子を次々アメリカの有名大学(この前もちょっと書きましたが、学費が馬鹿高い)に入れていることからして、賢く節税して資産運用しているということなのだと思いますが、色々なことがわかって、興味深いのです。

 テレビでこの問題が大きく取り上げられることはまずないでしょう。その名簿には重要スポンサーが顔を並べているからで、取り上げられたとしても、「悪質か、そうでないかの違い」を強調し、御用コメンテーターたちにスポンサーたちには何の罪もないということを言わせ、無知な視聴者を丸め込むことに使われるだけです。訳知り顔の「知的な」解説などされると、「なるほど、そうか」とわかったようなつもりになって、そこで思考停止に陥ってしまうのです。

 前々から大企業の「合法的脱税」についてはあれこれ言われていました。たとえば米国グーグル社は税金を全く払っていないとか、日本の場合だと、トヨタは法人税がゼロだとかです。こういう大手は多数の雇用を生み出しており、そこの被雇用者たちは通常の税金を払っているのだから、問題はないのだという人も一部にいますが、今の世界の大問題の一つは、巨大多国籍企業がそうした「合法的脱税」によって生み出した巨額の資産を背景に、国会議員を飼ったり、政府を直接コントロールしたりして、自分たちに好都合な政策や法律を作り出して、国家そのものを牛耳る結果を生み出していることです。今のアメリカ政府がウォール・ストリートの支配下に置かれていることはなかば常識ですが、民主主義をタテマエとする国家も、その多くが実際は「企業主権」の国になっており、政府はその傀儡にすぎないのです。TPPなんかは、どんなきれいごとを並べようとも、企業利益の増大を図ることが第一義的に重要なので、その線に沿って取り決めと運用は行われる。

 今の世界は、古代の奴隷制国家の復活に向かっています。その21世紀ヴァージョンは、一部の富裕層と大企業が、一般国民を奴隷化するというもので、官僚や政治家、財界エリートたちは前者の使い走りと化すのです。マスコミもまた、進んでその片棒を担ぐ。

 パナマ文書の類は、そうした歪んだ支配システムの一側面を示すものにすぎません。アグネス・チャンごときの「節税」はどうでもよろしいが、より大きな文脈の中に置いてこの問題を見るとき、そこに隠された問題には空恐ろしいものがあるということです。
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