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安保法制で「東アジアの保安官」になる?

2015.07.28.16:10

 安倍首相お得意のフレーズの一つに「もはや一国だけでは国を守れない」というのがありますが、そもそもそれはどういう意味なのだろうと、先日あらためてグーグルで検索してみたら、昨年四月の「『一国のみで平和守れない』が世界の共通認識」と題された、次のような演説を筆起こしした記事が出てきました。論点潰しの一つとして書いておきたいので、御用とお急ぎでない方はお付き合い下さい。

「こうした事態は机上の空論ではありません。連日、ニュースで報じられているように、南シナ海ではこの瞬間も、力を背景とした一方的な行為によって国家間の対立が続いています。これはひとごとではありません。東シナ海でも、日本の領海への侵入が相次ぎ、海上保安庁や自衛隊の諸君が高い緊張感を持って24時間体制で警備を続けています。北朝鮮のミサイルは、日本の大部分を射程に入れています。東京も大阪も、みなさんの町も例外ではありません。そして、核兵器の開発を続けています。さらには、サイバー攻撃など、脅威は瞬時に国境を越えてきます」
「これは、私たちに限ったことではありません。もはやどの国も一国のみで平和を守ることはできない。これは世界の共通認識であります。だからこそ私は、『積極的平和主義』の旗を掲げて、国際社会と協調しながら、世界の平和と安定、航空・航海の自由といった基本的価値を守るために、これまで以上に貢献するとの立場を明確にし、取り組んできました」(産経新聞2014.5.15より)


 ふつう「一国のみでは国を守れない」と言う場合には、何か巨大なスーパーパワーが出現し、共同してこれに対抗するのでなければそれに呑み込まれる、または潰されてしまうといった事態のことでしょう。しかし、ここにはそんな話は述べられていないので、中国の軍事力も「スーパーパワー」と言えるほどのものではありません。「サイバー攻撃」云々は、軍事力とはほとんど無関係だし、「北朝鮮のミサイルは、日本の大部分を射程に入れています。東京も大阪も、みなさんの町も例外ではありません。そして、核兵器の開発を続けています」にいたっては、国民の恐怖心を煽る意図からする、悪質なアジテーションにすぎません。「この瞬間も」「ひとごとではない」といった言い回しなど、わが国の「存立危機事態」が目前に迫っているかのようですが、たんなる「為にする」脅し文句にすぎないので、「危険だ、危険だと言えば、実際に危険になる」と信じている妄想患者のたわごとだと言われても仕方はないでしょう。

 前々から指摘していることですが、彼の話には「論理」というものがありません。「主観」と「気分」で無理やり話をつなげていって、ここでも「だからこそ私は、『積極的平和主義』の旗を掲げて…」というところにもってゆくのです。彼は「考える」ということをしない、またはできない人間で、「私がこう思えば、それが真実だ」というところがあるからこそ、始末に負えないのです。何の根拠もなしに「安保法制は合憲だ」と言い張るのと同じで、どんな「歯止め」規定が設けられていても、そんなものは無視して、自衛隊に出動を命じ、これはその歯止め規定には何ら反していないと強弁しかねない。多くの人はそれを懸念するのであり、こちらの懸念にはこれまでの彼の言動からして、十分な根拠があるのです。

 最近になって、「安保法制は安倍首相個人の資質が最大のネックになっている」という声が出始めました。安倍だからできる、というのではなく、安倍だからこんな大騒ぎになって失敗しそうだ、といううがった意見です。たとえば、リチャード・カッツ氏(著者紹介には「The Oriental Economist Report編集長。ニューヨーク・タイムズ、フィナンシャル・タイムズ等にも寄稿する知日派ジャーナリスト」とあります)の、東洋経済online 「『集団的自衛権』が、安倍首相の命取りになる」と題された寄稿文は次のような言葉から始まっています。

 安倍晋三首相自身が、集団的自衛権行使を日本に定着させる上での最大の障害になるかもしれない。なぜならば、日本人の多くが、首相の集団的自衛権擁護を彼の超ナショナリスト的見解と切り離すことができないからだ。

 これは当たっていると思います。僕なども「彼の超ナショナリスト的見解」、体質と結びつけてこの法案を批判しているからです。面白いのは右からも批判が出ていることで、「馬鹿な安倍のおかげで、憲法改正は絶望的なまでに困難になってしまった」と憤る人たちがいます。ネトウヨ丸出しの安倍のせいで、憲法改正の意図が疑われ、まともな憲法改正論も受け付けてもらえなくなった、というのです。

 今の安倍政権の30%台の支持率は、だから、ネトウヨとこの種のことに全く無知な人、及びアベノミクスの恩恵を受けていて、他はどうでもいいという人たちだけの合計ということになるでしょう。まともな保守派からも彼は見限られてしまったのです。

 あるいは、「幸福実現党」なるものを立ち上げて、選挙のたびに多数の候補者を擁立し、全員落選の憂き目に遭っている(国政選挙では一人当たり300万の供託金が必要で、法定得票数に達しなければ全額没収されるから、それは莫大な金額になるので、よほど潤沢な資金をもっているのでしょう)霊言教祖率いる某カルト教団の信者たちにも支持されているのかも知れません。前に選挙のとき、「北朝鮮を先制核攻撃すべし」というようなことをこの教団政党は言っていて、僕はそれに驚いたことがあるからです。上の安倍の演説に見られる「北朝鮮の脅威」に対する煽りなど、実は安倍はこの教団の「隠れ信者」ではないかと疑いたくなるほどで、大方の人は、北朝鮮は口では脅しを連発しても、金正恩が発狂して自殺願望にとりつかれたのでないかぎり、即自滅を意味する核ミサイル攻撃の挙になど出るわけがない、と考えていますが、安倍はこの演説から判断するかぎり、「先制攻撃して潰しておいた方がいい」というのがホンネなのだろうなと思われるからです。

 この安倍講演の主眼は、しかし、何より「中国の脅威」に向けられているようです。前回取り上げたフジテレビの番組でも、彼は「よこしまな考え」ということばを複数回使っていました(僕はそれを見てあのブッシュ・ジュニアの「ならず者国家」の連呼を思い出しました)が、安倍の念頭にある「よこしまな考え」をもつ国は中国と北朝鮮で、毎年のように飢餓情報が伝えられていて、世界からの無料食糧援助なしには立ち行かない超貧乏国北朝鮮は自暴自棄の暴発が心配されるだけだが、GDPでも時間の問題でアメリカを追い抜くだろうと言われている中国はそうではない。先頃も人権派弁護士の一斉逮捕などというニュースが伝えられ、「内部からの反乱」を恐れているこの共産党独裁国家の内情は相当緊張と混乱をはらんだもので、外部との戦争どころではなさそうだと思われるのですが、とにかくその国力、軍視力からして、「脅威」は北朝鮮の比ではないのです。

 かいつまんで言えば、こういうことなのでしょう。南シナ海、東シナ海における中国の「覇権的態度」「力による現状変更」に対抗するために、日本はアメリカと組んでそこに出張り、「東アジアの保安官」の役目を果たすべきだ、と。いらざる「大義なき戦争」の連発で、大金を費やし、国内に厭戦気分のみなぎるアメリカも、アジア・太平洋地域における米国のプレゼンスを維持するためには、日本を「副保安官」に仕立ててそこに「駐留」させることなくしては、中国に対抗することはできない。そのための「新安保法案」なのだと。

 ネトウヨの安倍の宿願は、かつての「東洋の盟主」としての地位を回復することです。むろん、またぞろ「侵略」に乗り出すというのではない。アメリカと一緒にアジア地域の保安官の役目を果たすことによって、「周辺諸国からの尊敬と感謝」をかちえたい、というのが国家と自己同一化することによって個人的なコンプレックスを補償したい(それについて彼が無自覚なのは言うまでもありません)彼の強い願望なのです。

 ネトウヨたちに共通してみられる中国に対する強い感情的反発は、GDPで抜かれてしまっただけでも腹立たしいのに、中国が「東洋の盟主」の座を狙っていると感じられるからです。世界57ヶ国が参加を表明した中国肝煎りの国際金融機関「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」に対する安倍政権の反発にしても、それは「不透明な組織運営や融資審査基準」だけが理由ではなくて、そこに「アジアの盟主たらんとする中国の野望」が見えるから我慢ならない、という感情的反発の方が先に立っているのでしょう(だから日本もそこに参加して、問題のある点は改めるという方向で動いた方が国益にもなる、という意見は頭ごなしの拒絶を受ける)。

 中国が経済力の伸長に伴って、アジアや世界に大きな影響力を及ぼすようになったということは、別に中国の悪事ではありません。日本もこれまで、その経済力ゆえに存在感をもちえたのですから。

 そこらへん、冷静に考えるべきで、チベット問題に対する批判への中国のヒステリックなまでに過敏な反応を見ても、国際的評価を落とすものとして中国が非常に気にしていることは明らかで、似たような侵略行為を今後中国が行うとはまず考えられません。先頃中国は台湾市街に似た場所で軍事演習を行ったそうで、中国は元から台湾の独立など認めていないのですが、その「自国の一部」である台湾の武力を用いての「併合」ですら、それは激しい国際的非難を招くのは必至なので、実際にはためらうでしょう。

 こう言えばネトウヨたちからは「中国の回し者」扱いされるかもしれませんが、むろん僕はそのような者ではありません(だったらもっと金持ちになっているでしょう)。中国が領有権を主張しているところで勝手なことをしている、今のところはそれにとどまるので、それに対しては「武力による対抗」より国際世論による非難を盛り上げることの方が効果的でしょう。安倍の言う「日米軍事同盟強化による抑止力」は、むしろ中国共産党内部のタカ派や、軍人の発言力を強化する結果につながりそうです。そうして中国を先鋭化させ、「見ろ、中国はこんなにも危険な国なのだ!」と言うのでは、完全なマッチポンプです。

 さきほどのリチャード・カッツ氏の言ではないが、対中国の問題を考える場合でも、安倍晋三それ自身が「マイナス要因」になっているのです。「英霊の御霊(みたま)」などという時代がかった言葉を用いてA級戦犯を合祀した靖国神社に堂々と参拝し、復古的な発言や行動を繰り返す首相の率いる国が、憲法違反の法律を通し、アメリカの代官面をして「抑止力」と称して外に出張ろうとするのでは、中国にさらなる軍拡正当化の口実を与えるようなもので、自ら火種をまいているようなものです(こう言えば、「中国の軍備拡大は前々からのものだ」と安倍一派は言うでしょうが、それも「日米軍事同盟がいい口実になってきたのだ」とも言えるでしょう。僕は「国内暴動」への恐怖も隠れた心理的要因としては相当あると見ていますが)。

 安保法制の“真意”が「日本が東アジアの保安官になる」ことだとして、どれくらいの人がそれに賛成なのでしょう? 僕自身は逆効果になる可能性の方が高い、その種の「ええカッコしい」には全く賛同できませんが、今の斜陽経済大国ニッポンでは、国家に自己同一化して、「誇り高い日本」の幻影に酔うことによって自尊心を高めたいという向きが少なくないので、それは一定の支持を集めるかもしれません。先の太平洋戦争でも、関東軍の暴走がきっかけで起きた満州事変に、関東大震災、金融恐慌と続いて混乱と疲弊のさなかにあった日本国民は快哉を叫んだと言われています。それは軍部寄りになって一面的な報道しかしなくなっていた新聞の影響も強く関係していたようですが、「強い日本」のイメージは自分がネガティブな要素に取り巻かれていればいるほど、魅力的に映ったのです。その後どうなったかについては言うまでもありません。中国側の抵抗を甘く見た軍部(彼らにはつねに自分に好都合な「希望的観測」――「前向き」と言えば言える!――に基づいて予測を立てたがるという根本的欠陥があった)の思惑は外れて日中戦争の泥沼に落ち込み、軌道修正できないままずるずると、自殺行為としか思えない対米戦争へと突っ込んでゆく羽目になったのです。

 むろん、当時と今とでは状況が異なります。しかし、長期にわたる不況と、東北大震災、それによって生じた悲惨な福島原発事故の後遺症を引きずり、ジャパン・アズ・ナンバーワンと言われた「過去の栄光」が遠く感じられるようになった斜陽経済大国に、「日本を取り戻す」式の復古的ヒロイズムに酔ったナショナリストが政治リーダーとして登場するという図式には、僕はあまり健康なものを感じないのです。やれオリンピックだの、経済再生だのと景気のいい話をぶち上げる一方で、「国家安全保障上の危機」を煽る、こういう男は一番信用できないと、直観が僕に告げるのです。

「日本版人民日報」と揶揄される読売新聞の世論調査でさえ、不支持が支持を上回った安倍政権は、今後「ソフトスマイル路線」に切り替え、あらゆる機会をとらえて「危険なタカ派」イメージの払拭に努めるでしょう。参院でも、「国民の理解が進んでいない」(ほんとは“正解”されても困るでしょうが)ことを背景に、「ていねいな審議」を心がける。

 他にも、賛同を集めるために色々な手を考えているようです。二日前の26日には、次のようなニュースがありました。毎日新聞の記事ですが――

 日本とオーストラリア両政府は、アボット豪首相が9月に来日し、安倍晋三首相と会談する調整に入った。複数の政府関係者が明らかにした。アボット氏は安全保障関連法案への支持を表明する見通し。日本政府は、豪州政府の支持によって法案の重要性を強調し、国内世論の理解につなげたい考えだ。

 安倍政権は、「見なさい。親分のアメリカだけではなく、他の国々からもこの安保法制は強く支持されているのだ!」というところを示したいのです。そうやって国民を「安心」させたい。日本でオーストラリアというと、「カンガルーやコアラなどの珍しい有袋類がいる平和な国」というイメージがあって、日本の高校の修学旅行先などにもえらばれているので、イメージ戦略としては好適なものとみなされているのでしょう。

 しかし、水を差すようですが、オーストラリアというのは、あのイラク戦争にも、これまでの軍事同盟のしがらみからアメリカの「有志連合」国の一つとして参加した数少ない国の一つで、アメリカが呼びかけた「対イスラム国有志連合」にも加わり、ISに空爆を行ったりしているのです。無邪気な子供がもつイメージとは、そこらへんだいぶ違う。アボット首相は、この度の安保法制で、日本もそうした「有志連合」の一員としてより「積極的」な役割を果たしてくれるようになるだろうと、期待しているのでしょう。安倍首相が「憲法9条の制約を乗り越えた」“英断”をたたえるために、彼はやってくるのです(尤も、今年2月には「党首辞任動議」を起こされたりして、政権支持率も下がっており、この記事の末尾にも「アボット氏は豪国内で厳しい政権運営を強いられており、豪側が内政対策を優先すれば、来日時期はずれ込む可能性もある」とありますが)。

 今回は以上です。
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