今年のアカデミー賞を三つ(作品賞、脚色賞、編集賞)も受賞したという映画『アルゴ』をレンタルDVDで観ました。ウィキペディアのストーリー紹介では、
【イラン革命真っ最中の1979年。イスラム過激派グループがテヘランのアメリカ大使館を占拠し、52人のアメリカ人外交官が人質に取られた。だが占拠される直前、6人のアメリカ人外交官は大使館から脱出し、カナダ大使公邸に匿われる。CIA工作本部技術部のトニー・メンデス(ベン・アフレック)は6人をイランから救出するため、『アルゴ』という架空のSF映画をでっち上げて6人をそのロケハンのスタッフに身分偽変させるという作戦をたてる。】
…となっている映画です。僕が見る前に一番心配したのは、ヘンな「愛国映画」になっているのではないかということでしたが、冒頭で異例の長いナレーションが流れ、その懸念は払拭されました。それでも、やはりウィキペディアによれば、「イラン国内では「反イラン的」映画、「歴史的背景をしっかりと描ききれていない」という意見があり、イランアメリカ大使館人質事件を別の角度から描く『The General Staff』(アタオラ・サルマニアン監督)の製作が発表された」そうですが、これが中国のよくある「反日」映画や、わが国の愛国的「反自虐史観」映画(そのうち制作される?)だと、なかなかこうは行かないでしょう。イランの反発や、国際的評価を気にして、“仕方なく”入れたのかも知れませんが、ともかくこういうところはさすがアメリカだなと思いました。
映画そのものとしては、僕には『大いなる陰謀』(原題は Lions for Lambs ロバート・レッドフォード、トム・クルーズ、メリル・ストリープ他出演)の方がはるかに面白かったが、とにかくこの冒頭のナレーションは「良心的」です。
それは、こう始まります。
これはペルシャ帝国 現在の国名はイラン
2500年もの間 この地を治めた王たちは シャーと呼ばれた
1950年 イラン国民は非宗教的な民主的指導者
モハマド・モサデクを首相に選出
彼は英米が支配していた石油を国有化し 民のものとした
だが1953年
英米はクーデタを裏で工作 モサデクを追い落とすと
パーレビを国王に据えた
若きパーレビは贅沢な浪費で知られた
王妃は牛乳風呂に入ると噂され
パーレビはコンコルドでパリから昼食を運ばせた
民は飢えていた
パーレビは冷酷無比な秘密警察
「サヴァク」を通じて権力を維持
拷問と恐怖の時代が始まった
パーレビはイラン西欧化のキャンペーンを開始
伝統的なシーア教徒たちを激怒させた
1979年 イラン国民はパーレビを追放した
亡命していた最高指導者アヤトラ・ホメイニが帰国
恨みの応酬、粛清、混沌がイランを襲った
米国は癌を患うパーレビの入国を許可
イラン国民は米国大使館に押し寄せ
パーレビの引渡しを要求した
裁判にかけ 絞首刑にするために
〔事実に基づく物語〕
…ということで、この映画は始まるのです(なかなかの名調子ですが、数箇所、英語字幕に合わせて文を改変させてもらいました。「こう訳した方が曖昧さがなくてよいのでは?」と思う箇所が二つほどあったので、ついでにいじらせてもらっただけで、別に日本語字幕にケチをつけようという意図から出たものではありません)。
僕が「良心的」だと言うのは、かつて自国がやった汚い裏工作(イラン国民自らがえらんだ民主的指導者のモサデクを、石油利権奪還のためにクーデタを仕掛けて追い落とした)や、パーレビという米国の“傀儡シャー”が最低の男で、それが逆に「ホメイニ革命」を呼び込む導火線になってしまった(今のイランもその延長線上にある)のだという歴史の皮肉を正直に認めている点です。
この映画、冒頭のこれがなければ、全体の印象は全く違うものになってしまうでしょう。宗教の狂気にとりつかれた中東の“未開で頑迷な”一国家国民のために危地に陥った自国の大使館員を救出すべく、死の危険をも顧みず、奇策を用いて行動したCIA工作員の英雄物語、みたいになってしまうからです。元はといえばアメリカ政府が薄汚い真似(同じようなことをアメリカはあちこちでやってきたわけですが)をしたからこそ、こういうややこしいことになってしまったわけで、その尻拭いのためにとんだ苦労しなければならなかった、というところが、冒頭のナレーションがなければすっぽり抜け落ちてしまう。
しかし、実際のところ、僕に一番印象深かったのはこの冒頭のナレーションでした。「そもそもおたくの政府が卑劣でアホなことをやったからこそ、こういう事態を招いてしまったんだろうが…」という感じがそのためずっと残って、いくらかシラけた思いがつきまとってしまったからです(先のイラク戦争など見ても、アメリカ政府が懲りたとは思えないのですが…)。
だから、この冒頭箇所は最初はなくて、後で渋々付け加えられたものなのではないかという気もしたのですが、そのあたりどうなのか、僕にはわかりません。
しかし、とにかくそれは付けて公開された。そのあたりにアメリカ映画人の良心があるような気がすると言えば、ちょっと大げさだと言われるでしょうか。
【イラン革命真っ最中の1979年。イスラム過激派グループがテヘランのアメリカ大使館を占拠し、52人のアメリカ人外交官が人質に取られた。だが占拠される直前、6人のアメリカ人外交官は大使館から脱出し、カナダ大使公邸に匿われる。CIA工作本部技術部のトニー・メンデス(ベン・アフレック)は6人をイランから救出するため、『アルゴ』という架空のSF映画をでっち上げて6人をそのロケハンのスタッフに身分偽変させるという作戦をたてる。】
…となっている映画です。僕が見る前に一番心配したのは、ヘンな「愛国映画」になっているのではないかということでしたが、冒頭で異例の長いナレーションが流れ、その懸念は払拭されました。それでも、やはりウィキペディアによれば、「イラン国内では「反イラン的」映画、「歴史的背景をしっかりと描ききれていない」という意見があり、イランアメリカ大使館人質事件を別の角度から描く『The General Staff』(アタオラ・サルマニアン監督)の製作が発表された」そうですが、これが中国のよくある「反日」映画や、わが国の愛国的「反自虐史観」映画(そのうち制作される?)だと、なかなかこうは行かないでしょう。イランの反発や、国際的評価を気にして、“仕方なく”入れたのかも知れませんが、ともかくこういうところはさすがアメリカだなと思いました。
映画そのものとしては、僕には『大いなる陰謀』(原題は Lions for Lambs ロバート・レッドフォード、トム・クルーズ、メリル・ストリープ他出演)の方がはるかに面白かったが、とにかくこの冒頭のナレーションは「良心的」です。
それは、こう始まります。
これはペルシャ帝国 現在の国名はイラン
2500年もの間 この地を治めた王たちは シャーと呼ばれた
1950年 イラン国民は非宗教的な民主的指導者
モハマド・モサデクを首相に選出
彼は英米が支配していた石油を国有化し 民のものとした
だが1953年
英米はクーデタを裏で工作 モサデクを追い落とすと
パーレビを国王に据えた
若きパーレビは贅沢な浪費で知られた
王妃は牛乳風呂に入ると噂され
パーレビはコンコルドでパリから昼食を運ばせた
民は飢えていた
パーレビは冷酷無比な秘密警察
「サヴァク」を通じて権力を維持
拷問と恐怖の時代が始まった
パーレビはイラン西欧化のキャンペーンを開始
伝統的なシーア教徒たちを激怒させた
1979年 イラン国民はパーレビを追放した
亡命していた最高指導者アヤトラ・ホメイニが帰国
恨みの応酬、粛清、混沌がイランを襲った
米国は癌を患うパーレビの入国を許可
イラン国民は米国大使館に押し寄せ
パーレビの引渡しを要求した
裁判にかけ 絞首刑にするために
〔事実に基づく物語〕
…ということで、この映画は始まるのです(なかなかの名調子ですが、数箇所、英語字幕に合わせて文を改変させてもらいました。「こう訳した方が曖昧さがなくてよいのでは?」と思う箇所が二つほどあったので、ついでにいじらせてもらっただけで、別に日本語字幕にケチをつけようという意図から出たものではありません)。
僕が「良心的」だと言うのは、かつて自国がやった汚い裏工作(イラン国民自らがえらんだ民主的指導者のモサデクを、石油利権奪還のためにクーデタを仕掛けて追い落とした)や、パーレビという米国の“傀儡シャー”が最低の男で、それが逆に「ホメイニ革命」を呼び込む導火線になってしまった(今のイランもその延長線上にある)のだという歴史の皮肉を正直に認めている点です。
この映画、冒頭のこれがなければ、全体の印象は全く違うものになってしまうでしょう。宗教の狂気にとりつかれた中東の“未開で頑迷な”一国家国民のために危地に陥った自国の大使館員を救出すべく、死の危険をも顧みず、奇策を用いて行動したCIA工作員の英雄物語、みたいになってしまうからです。元はといえばアメリカ政府が薄汚い真似(同じようなことをアメリカはあちこちでやってきたわけですが)をしたからこそ、こういうややこしいことになってしまったわけで、その尻拭いのためにとんだ苦労しなければならなかった、というところが、冒頭のナレーションがなければすっぽり抜け落ちてしまう。
しかし、実際のところ、僕に一番印象深かったのはこの冒頭のナレーションでした。「そもそもおたくの政府が卑劣でアホなことをやったからこそ、こういう事態を招いてしまったんだろうが…」という感じがそのためずっと残って、いくらかシラけた思いがつきまとってしまったからです(先のイラク戦争など見ても、アメリカ政府が懲りたとは思えないのですが…)。
だから、この冒頭箇所は最初はなくて、後で渋々付け加えられたものなのではないかという気もしたのですが、そのあたりどうなのか、僕にはわかりません。
しかし、とにかくそれは付けて公開された。そのあたりにアメリカ映画人の良心があるような気がすると言えば、ちょっと大げさだと言われるでしょうか。
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