年長者は知恵で勝つ!~『ジョニー・イングリッシュ:気休めの報酬』

2012.05.27.07:35

 延岡の映画館にはかからなかったので、これがDVDでレンタル店に並ぶのを、僕は楽しみにしていました。

「『気休めの報酬』はまだ出ないの?」
「いや、『慰めの報酬』です。こちらにあります」
「それは『007』の話だろ? 僕が聞いてるのは、コメディの『ジョニー・イングリッシュ』の方だよ。原題は“Johnny English Reborn”なんだけど、日本語タイトルは無理に007にこじつけて、そうなってしまったらしい。まあ、トム・クルーズの『ミッション・インポッシブル』をもじった“どんな作戦でも不可能にしてしまう男”というフレーズなんかは、僕もうまいと思うんだけど…」

 しばらく前にそういうトンチンカンな会話を店員と交わしたのですが、ついに出た!
 この第二作では、イングリッシュはチベットの僧院で修行に励んでいることになっていて、master(老師)の指導よろしきを得て、世界最強、無敵のスパイとして再び蘇ることになるのです。
 その予告編が実に面白い(複数のバージョンがありますが、これはその一つ)。あの修行のあたりは明らかに『バットマン ビギンズ』のパロディだと思われるのですが、バットマンでは渡辺謙が扮していた老師役のじさまの、あのおごそかな口調のセリフが何より可笑しいのです。

“For five winters (now) you have hidden from the world.”
“Once you were a great warrior.”
“I will make you a warrior again.”

 なんてセリフが並ぶのです(翻訳は不要でしょう)。前作でイングリッシュが諜報部員に登用されたのは、事務方の彼の信じられないようなミスの連続のせいで、スパイがみんな死んでしまって他に候補がいなくなってしまったからですが、いつのまにかgreat warrior(偉大な戦士)だったということになっている。
 しかし、本編ではこれらのセリフは出てきません。窓を閉めたときに猫を落としてしまって狼狽するシーン(上のURLのとは別の予告編)などはそのままですが、老師のセリフはかなり違う。しかし、こちらはこちらでまた笑えるのです。

“You came here to forget your life of shame.”(おまえは恥の人生を忘れるためにここにやって来た)なんて、泣けるではありませんか?(じっさい、イングリッシュの場合、本人の高すぎる自己肯定感にもかかわらず、人生は恥で蔽い尽くされています)。
“Mind must be master of the body. Strong mind can separate the body from its suffering. ”(精神は肉体の主人であらねばならぬ。強靭な精神は肉体をその苦しみから切り離すことができる)というセリフは予告編にも一部入っていますが、とにかく東洋哲学とマーシャルアーツの真髄を、イングリッシュは深く学ぶのです(それを体得するため「火渡りの術」にも挑戦)。
 ロープで石をズルズルと引きずるあの有名なシーンなど、そのロープはどういうわけだか股間から出ているのですが(どこにくくりつけられているかは神のみぞ知る!)、何でそんなことをしているのかは、老師の“Our purpose here is simple. To strengthen what is weak. Make hard what is soft.”(弱いものを強くし、柔らかいものを硬くする)という、解釈によってはとんでもないことになりかねない言葉によって説明されるのです。
 そしてついに、MI 7(実在する英国の諜報機関はMI 6)から帰還命令が下る日がやってくる。苦節五年の厳しい修行に耐えたイングリッシュは老師に“Master, what is my destiny?”とたずねます。すると、老師はこう答える。

“I'm in touch with a higher power.” 

 おお! 東洋の偉大なマスターである老師は「高次の力」とたえず連絡をとっておられるのです!(ちなみにこのbe in touch withやkeep in touch (with)は受験の必須熟語)。そこで老師はパソコン(今やハイヤー・パワーもパソコンに宿る?)のキーを打つ。そこにMI 7からの帰還命令が(一度はdismissed=クビになっていたのですが)記されているというわけです。おまえはロンドンに戻って、果敢な戦士、007以来の女王陛下の秘密諜報部員として再び活躍しなければならない。

“Only then can you be reborn.”

 何という厳かな響きの言葉でしょう! この映画の最も重要な登場人物の一人は、掃除婦やゴルフのキャディを装ってたえずイングリッシュの命をつけ狙う凄腕スナイパー、assassin(刺客)の中国人おばあさんで、それは真に強力で恐ろしいのですが、そのあたりは見てのお楽しみです(最後のオチもこのアサシンがらみ。エリザベス女王もこの映画をごらんになったのでしょうか?)。

 それで、僕がこの映画の名セリフとして挙げたいのが、この記事のタイトルに使わせてもらった「年長者は知恵で勝つ」です。実に含蓄に富む言葉ではありませんか? イングリッシュは元々おそろしく運動神経が鈍い上に、もはや若くないので、これは彼がチベットの僧院で学んだ最も重要な教えの一つなのですが、日本語字幕でそう訳されているこのセリフは元々はこうです。

“You are not young. But with age comes wisdom.” 

 直訳すれば、「叡知は年齢と共にやってくる」となります。そのwisdomのあまりのシンプルさには驚かされる(修行が必要だとはとても思えない)のですが、ともかくここの字幕の訳は画面にぴったりでうまい。さすがはプロです(高校生用に念のため説明しておくと、この文はwisdom comes with ageの倒置なのです)。

 僕はかつてピーター・セラーズの熱烈なファンだったのですが、この『ジョニー・イングリッシュ』はピーター・セラーズにおける『ピンク・パンサー』のクルーゾー警部のような、ローワン・アトキンソンの当たり役になるのではないかと思っています。欲を言えば、このあたりをもうちょっと工夫すればもっと笑えただろうというところはいくつかあったものの、アトキンソンはピーター・セラーズと同じく、そこに真面目な顔をして座っているだけで人を笑わせてしまうという稀有の資質をもつ天才コメディアンです(日本にも昔はそういう役者がいました。左卜全[ひだりぼくぜん]や藤山寛美、渥美清などがそうです)。よってさらに続編が制作されるのを期待したいと思います。

 それにつけても、やはり僕ら中高年は「知恵で勝つ!」というふうにならないといけません。知恵はもとよりシンプルなもので、それによって若者にありがちな悪戦苦闘の無駄を省き、逆にスピーディに問題を解決に導くのです。体力の低下を補って余りある知恵があってこその中高年なので、それがなければただの厄介者、社会の妨害物です。世間に重んじられたい一心で用もないのに出しゃばり、空疎で混乱した長たらしい講釈(大方の場合、ご本人も何を言っているのかわかっていない)を垂れるしか能がないようでは、たんなる「社会の迷惑」でしかありません(お笑いネタになりたいのなら別として)。
 ちなみに、この映画にはイングリッシュの上司役として、いっとき話題になった『Xファイル』シリーズのスカリー役をしていた女優さん(ジリアン・アンダーソン)が出ていますが、この人はむしろ昔よりきれいになってるな、という印象を僕は受けました。With age comes meaningful beautyというところが、年のとり方によっては、女性にもあるのです。

 ともあれ、笑いたい方でまだごらんになっていない方には、DVDを借りて見ることをお勧めします。「年長者は知恵で勝つ」ヒントが満載…されているかどうかは、保証のかぎりではありませんが。
 高校生も、あのチベットのマスターのわかりやすい発音のセリフなど、英語の勉強にもなりますよ(わが息子は幼児の頃、母親が借りてきた『機関車トーマス』『熊のプーさん』などの教育的配慮に富む幼児用ビデオには見向きもせず、父親愛蔵の字幕版『ピンクパンサー(とりわけ3と4)』を見てケタケタ笑っていました。あてがうものに興味を示さないので、一度仕方なくそれを見せたら大喜びで、「クルーゾーがいい」と言って、何度も同じのを見たがって、彼女を呆れさせたようです。遺伝というのは恐ろしいもので、父子で笑いのツボが一致していたのです。遊びにもだから、「怪獣ごっこ(父親が悪い怪獣役で激闘の末やっつけられる)」の他に「クルーゾーごっこ(クルーゾーとケイトーの戦い)」というのがあって、父子はかなり真剣に戦いを演じたものです。「やっとられんわ」と言いたげな母親の深い嘆きにもかかわらず、期せずしてそれが“英才教育”になったと見え、おかげで“昔受験生”の父は苦手な英語のリスニングが、彼は得意になったのです。母子はその因果関係を否定していますが、他に理由は見当たらないので、父親の僕はそうにちがいないと思っています。幼い子供をもつお母さんたちも、わが子と一緒にこういう映画を見るといいかも知れません。どのような性格の持主になるかについてまでは、責任は負いかねますが…)。
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