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ベストセラーの作り方2

2011.11.04.16:43

 天気図ではバリバリに高気圧が張り出していて、「爽やかな秋晴れ」になっているはずなのに、九州方面では梅雨みたいなぐずついた天気が続いて、今も外は雨です。迷走を続ける例の「ギリシャ財政問題」みたいな煮え切らなさです。
 そこで…と言うわけでもないが、再び「プラス思考のヒットメーカー」唐変木出版社長兼編集主幹・猿野真似夫氏にご登場願って、軽くお笑いいただくことにしましょう。

 今回は、『どうして日本はこんなに世界中から愛され、尊敬されるのか?』という新刊のPRを兼ねて電話をくれたのだとのこと。

「どうも、それ、似たようなタイトルの本がもう何冊も出てませんか?」
「ですから、わが社のこれは、その決定版ともいうべきものなのです!」
「力強いお言葉ですが、僕にいくらか疑問に思われるのは、ほんとにそんな事実があるのかどうか、ということなんですが…」
「あろうとなかろうと、そんなことはどうでもよろしいわけですよ。長期不況と震災の痛手の中から立ち直るには、『がんばろう、ニッポン!』だけでは足りないわけで、どんなにわが国は素晴らしい国であるかを、われわれ日本人が無理にでも実感することが大切なのです!」
「なるほど。財政赤字が天文学的なレベルに達していても、日本の場合にはギリシャやイタリアのようには決してならないと、そう思い込むのにはよほどノー天気でなければなりませんからね」
「相変わらず、発想がネガティブですなあ。これは『ノー天気』ではなく、『前向き』と解すべきなのです。ご存じのように、わが国には莫大な個人金融資産がございますのでね、まだまだ大丈夫だと、弊社の『借金上等、円高万歳!』の著者の証券アナリストの先生も言っておられるほどです」
「無責任な…。その『どうして日本は…』という本にも、そういう話が充満しているわけですか?」
「いや、この本は主としてガイジンの賛辞を集めた本です。海外からの賞賛の嵐。それはもう、これでもかというほどほめちぎられてますからねえ」
「お世辞があんまり見え透いていて、かえって気が滅入るということはありませんか?」
「ありません。それはあなたのような性格のねじまがった人だけです」
「ははあ。しかし、僕みたいな人間はどのみちそんな本は買わないと思いますよ。そこに出てくる大方の賛辞というのは、著者または編集部が勝手に考えた“やらせ”の類じゃないんですか? あるいは、いまだに日本にはサムライとゲイシャがいると信じ込んでいる無知な外人の言葉だとか…」
「わっはっは。たしかに中には日本人女性はあのタレントの小雪のような清楚で奥ゆかしい印象の女性だけだと思い込んで、絶賛しているアホなガイジンの言葉もあるんで、私もそれを読みながら、一度うちのかみさんに会わせてやりたいと思ったくらいですが」
「一体、どんな奥さんなんですか?」
「小雪どころか大雪、いや、大量の土砂が混じった雪崩みたいなもんですからね、うちの場合は…。しかし、ここはそんなプライベートなことをお話しする場ではないので、どこまで行きましたっけ?」
「『どうして日本はこんなに世界から愛され、尊敬されるのか?』という新刊の話です」
「そうでした。他にもですね、『カップ酒を買う人は成功しない』というのがあるんですよ」
「缶コーヒー、じゃないんですか?」
「それは他社の本です。そちらはお読みになったのですか?」
「いや、僕は大のコーヒー好きで、缶コーヒーも毎日一本は飲んでいるので、なるほどそういうわけで自分は成功しないのかと、その本を立ち読みしたんですよ」
「それで、缶コーヒーはやめたんですか?」
「全然。だって今さら、成功もクソもありませんからね」
「カップ酒の方はどうですか?」
「そちらは元々買ってません。昔は無理してヤケ飲みしたこともあったのですが、そういうときにかぎってちっとも酔えなくて、翌朝頭がガンガンするだけ。体質的に酒は合わないのだとわかったので、ここ十年以上、誘われた場合は別として、ふだんは一滴もアルコールは口にしません。しかし、何でカップ酒は駄目なんですか?」
「あれには要するに、“日雇い労務者”的なイメージがしみついているからですよ。昔の『山谷ブルース』をほうふつさせるようなものが、あれにはあるのですね。それで、“日雇いメンタリティ”とでも呼ぶべきものが、あれを買うことによって知らずしらずに染みついてしまって、それが出世の大きな妨げとなるのです」
「そうすると、高級ワインでも飲めば、反対の“セレブ・メンタリティ”みたいなものが身につくわけですか?」
「まあ、かんたんに申せば、そうですね」
「だけど、そんなものばかり買ってたら、よけいに貧乏になるじゃありませんか?」
「そりゃそうですよ。だから私なんかも、最近は安い発泡酒ばかりで、うちの女房は、それでも機嫌が悪いくらいです。しかし、それでは本にならないのです!」
「ならないって…初めから、そんな本、出さなきゃいいじゃありませんか? 何を飲もうと、そんなことは余計なお世話です」
「もうこういう話はよしましょう。その本にはこういう会話そのものが“貧乏マインド”を強化すると述べられているのです。それで話題を変えるとして、傑出した現代日本文化論が一冊、来月弊社から出版されるのですが、そちらはもうご存じでしょうか?」
「いいえ。広告でも出しているのですか?」
「もちろんです。インターネットのホームページはもとより、『月刊萌え』や『月刊SM』、それから学習雑誌の『鶏鳴時代』にいたるまで、各種の代表的なメディアで大々的に宣伝しています」
「僕が知らない雑誌ばかりですね。学習雑誌の『ケイメイ時代』というのは、昔からある『蛍雪時代』の間違いではありませんか?」
「いや、それとは別の、最近売り出し中の雑誌です。これはセンター試験などのマーク式の試験で、選択肢のどれが一番当たる確率が高いかということを、IBMの最新コンピューターを駆使して割り出すなどのことをしていまして、部数を飛躍的に伸ばしている、いわゆる“赤丸急上昇”中の受験雑誌です。これ、法則のようなものがありましてですね、たとえば正解が4だとすると、次に1が来る確率は48%、2は26%、3が24%で、同じ4が41%、というようなことになっているわけです。そうだとすると、1か4を選ぶと確率が高くなるんですよ。なるほどと思って、最近私も中学生の息子に、模試の前にそれを教えておきました」
「当たったんですか?」
「いや、全滅でした。しかし、これはうちの息子が、最初の答を間違えていたからでしてね。最初の正解は3だったのに、1にして、そちらの法則を当てはめてしまったんです。それぞれの数字にパターンがあるので、それを暗記して、かつまた、最初が正解でないと、これは使えないんです」
「そんなアホな『法則』なんか覚えているヒマがあったら、単語の一つでも覚えた方がマシだと思いますけど。センター試験なんか、同じ番号が四回連続するなんてことも珍しくないのですよ。法則なんてありません。無意味な話です」
「しかし、科学的な分析に基づくのです。『これは絶対この選択肢に間違いない』という問題があれば、前後に遡ってその法則を当てはめることもできるので、そこらへんを図解して、一覧表にしてくれれば助かると、私は編集部に要望しておきました」
「そういうの、競馬・パチンコ必勝法や宝くじのロトの当て方を教えると称するインチキ雑誌と同じじゃありませんかね。ついでにお聞きしますが、何でその雑誌は『鶏鳴時代』なんでしょうか?」
「それは明白です。『一番鶏が鳴く頃起きて勉強する』という意味ですよ。ホタルなんか集めたり、雪明りで勉強するなんてのより、ずっと合理的・科学的でしょう」
「なるほど。ところでその“傑出した現代日本文化論”というのは何なのですか?」
「それそれ。『今なぜトサカ頭なのか?』というのがタイトルです」
「『今なぜ…』ってのは、いくら何でも古すぎますよ。センスがなさすぎて、それだけで『またか』と馬鹿にされてしまうんじゃないですか?」
「プロの編集者として、私はもちろんそれは承知していますが、この本の場合はまさにそれがぴったりなんです。お読みになればそれがおわかりになるでしょう」
「そもそも、〈トサカ頭〉ってのがわかりません」
「遅れてますな。ほら、最近はテレビのアナウンサー、しかもあのお堅いNHKのアナウンサーまで、頭のてっぺんの毛を立てるなんてことを、若い人はやってるでしょう?」
「わかりました。僕も初めはあれはヘンな寝癖でああなっているのかと思いましたが、たしかにトサカみたいになった髪型の人が多いですね。何がよくてあんなことしてるのか、僕にはサッパリわかりませんが。しかし、あれが文化と関係するのですか?」
「しまくりですよ、それは。あれは若い世代の、われわれ中高年に対するレジスタンスなんです。雇用条件は悪くなる、年金も払うだけ払わされて、もらえない。私の代でギリギリセーフぐらいですが、今の社会で権力を握っているのはじいさんばあさんと、われわれおじおばの世代なので、彼らはかわいそうに、冷や飯を食わされることになるのです。さっきあなたがおっしゃっていたように、国の大借金も彼らに押しつけられるわけでして。そこで彼らはレジスタンスを始めたわけです。おとなしい彼らは昔みたいにゲバ棒を振り回すことはできないので、新たな戦法を採用したのです」
「なるほど、『オレたちはほんとは怒ってるぞ』ということを、あのトサカで示しているわけですね。いわば象徴言語」
「読みが浅い! いや、これはその本の著者が述べておられることでして、本当はもっと深い意味があるのです」
「どういう意味ですか?」
「われわれ中年は、頭のてっぺんがかなり薄くなって、バーコード頭やハゲが少なくないでしょう。あのフリンの西山審議官にしても、ハゲを恥じて、何とか若く見せようと安物のカツラなんかつけてたわけです」
「たしかに。僕なんかも、日々バーコードに接近しつつあるという感じですからね」
「でしょう? それで嫌味にも彼らは、『あんたら、こういう髪型はできないでしょう』ということで、わざと中高年なら一番髪の薄くなる、あのあたりを盛り上げる、ということをしているわけです」
「なるほど。それでわれわれに屈辱感を与えると」
「さよう。それで心理的ダメージを与えて、中高年を自信喪失に導き、権力を奪取しようという、深謀遠慮が、あれには隠されているわけです。そうと悟られないようにしつつ、ボディブローのように利いてくるという…」
「なるほどねえ。しかし、それなら、『文化論』というよりは『革命論』みたいじゃありませんか?」
「私もそう思って、最初は帯に『現代のチェ・ゲバラ! 驚異の革命戦略を解明!』と書こうとしたんですが、今は『革命』なんて言葉ははやらないんです。そういうのは今の若者にはウザいだけなので、そんな言葉に郷愁を覚えるのは中高年世代だけです。ターゲットの読者層は30代以下なので、それではよろしくないわけです」
「たしかに、中高年がそんな本読んだら、気を悪くするだけですからね」
「そうです。まあ、怒ってブログや各種ネットレビューに悪口を書くために本を買って読む人というのも一定数いて、出版社としてはそういう読者もお得意さんに数えるのですが、マーケット全体からすると少数ですので。しかし、文化論としても、あながち間違いではないのです」
「どうしてですか?」
「今の若い世代は“エコ志向”で、スーツなんかも、われわれの世代から見ると、生地をけちったようなチンチクリンでしょ? 裾も短いし、からだにぴっちりした感じです。われわれには窮屈に見える。しかしあれなんかも、有限な地球資源を思えばこそなので、無意識にそういう心理がファッションにも反映されているのです」
「なるほど。してみれば、あのトサカカットにもそのような“エコ志向”が秘められているのでしょうか?」
「おっしゃるとおりです。あれは夏にはからだの熱を外部に発散しやすく、冬は暖房効果があるのです。ちゃんと省エネになっているのです」
「ほんとですか?」
「ほんとです。生理学と電気磁気学の研究者によって、そのあたりが解明されています。そのあたりの説明はきわめて専門的になるので詳しい話は割愛しますが、頭のてっぺんに毛が多いと暖房効果が期待できるというのは、ある程度常識からわかります。しかし、夏に暑くては困る。そこで、あのトサカ型にすると、放熱効果が夏には発揮されるということがわかったのです」
「すごいですねえ。若者やヘアデザイナーは、本能的にそのような知恵を得たのでしょうか?」 
「たぶん、そうです。やはり人類はまだ進化を続けているので、マヤ予言にもかかわらず、人類はまだ存続し、進歩するのです」
「それで思い出しましたが、僕に不思議なのは、おたくの会社はまっさきに『恐怖のマヤ予言! 忍び寄る人類絶滅の危機!』なんて本を出しそうに思えるですが、そういうのはないのですか?」
「あります。但し、そのような無責任なものではなくて、『マヤ文明と宇宙人アレマ』『古代マヤ文明のルーツは実は日本だった!』という、きわめて学問的なものです。良心的な著作のせいか、こちらは売れ行きが今一つなのですが、私はこれから編集会議に出席しなければならないので、今詳しくご説明できないのが残念です」

 それで僕は、「ご遠慮はいりませんので、早く編集会議の方へどうぞ」と言って電話を切りました。結局、何のために電話がかかってきたのかはよくわからないままです。
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