ネット時代のカンニング

2011.02.28.20:25

 「とうとうそんなのまで出てきたか…」と思わず苦笑してしまいましたが、関係者や受験生には笑い事ではないでしょう。

「京都大学(京都市)の入試問題の一部が試験中にインターネット上の掲示板に投稿された問題で、早稲田大学(東京都)などの入試でも同じID『aicezuki』で入試問題がネット上に書き込まれていたことがわかった。このIDでの投稿は京都、早稲田、同志社(京都市)、立教(東京都)の4大学で12回に上る。いずれも解答を求める内容で、ほとんどが試験中に回答が寄せられていた。京都府警は、偽計業務妨害の疑いもあるとみて捜査を始める方針を決めた」(朝日新聞電子版の記事より)

 同じ記事の中には、文科省担当者の「試験中に問題がリアルタイムで漏れるなんて聞いたことがない」という言葉が出ていますが、たしかにこれは前代未聞のカンニング(周知の通りこれは和製英語で、正しくはcheat on an examというふうに言う)のやり方です。何でも、「ヤフー知恵袋」というサイトにそれが投稿されたのだとか。しかし、IDから身元が割れるのは時間の問題ではないかと思われるので、それを考えれば、この受験生は何の意図でこういうことをしたのでしょう。ただの馬鹿なのでしょうか?

 昔も、入試問題が“流出”するということはありました。たとえば、この記事にも出てくる早稲田大学は、試験が終わって会場から出てくると、近くの予備校が作成した英語の解答速報なるものが配布されていたものです。それはかなりの誤りが含まれたもので、その通り回答したとしても正解率は85%程度にとどまったのではないかと思いますが、あれだって、試験が終わるまで受験生は外に出られないはずなので、誰かが午前中に終わった英語の問題を昼休みに中に石を包むなどして塀の外に投げ、予備校関係者がそれをキャッチして、急いでそれを持ち帰って、英語担当の講師たちが手分けして大急ぎで「正解」を作成し、印刷に回して、ということで作成されていたのではないかと想像されるのです。予め決めておいた場所で、塀を挟んで、「今、投げるからな」「おう!」なんてやっていたのかと思うと、笑えます。

 こういうのだと、許容範囲です。なぜなら、試験はすでに終わっているからです。しかし、試験の最中にそれをやり、時間内に答が提供されていたとなると、それはカンニングになる。仮に複数の受験生が手分けして問題を流し、予めそれを待ち受けている人間が(こちらも複数)いて、その「解答」を教えたとしましょう。そうするとそれらの受験生は高得点が取れる。複数の人間がグルになってやれば、効率もいいので、時間も十分足りるでしょう。

 事が発覚したのは、誰でも見られるヤフーのサイトにそれを流したからです。たとえばうちの塾の受験生たちが、彼らの多くは僕のメールアドレスを知っているので、試験中に、問題を送って寄越し、僕が答を送信するということだって、やろうと思えばできるわけです。そういう送受信をしているところを“現行犯”で押えないかぎり、バレることはない。

 むろん、うちの塾生にはそんな不心得な者はいないし、そんな依頼をしてくる奴がいれば、ゲンコツを食らわせるでしょうが、今はそんなことも、しようと思えばできるようになってしまった、ということです。

 今の子供や若者には万引きやカンニングに罪悪感をもたない者が少なくないと言われますが、一部のそうした不心得な人間の社会に及ぼす害にははかり知れないものがあります。

 銀行だって、今は口座を開こうとすると、身分証明書の提示を求められ、「審査」を受けねばなりません。自分が口座を開いて、預金するだけのことに何でそんな手間がかかるのかと言えば、「オレオレ詐欺」などによる口座の悪用が行われているからです。

 入試の場合も、これで携帯電話の持込みが禁止されるようなことになれば、多くの不便が発生するでしょう。試験中電源を切っておくことは言わずもがなの当然のエチケットで、そうしてカバンの中に入れておけば何の問題もないはずが、こういうとんでもない不正行為を働くような奴が出てくると、「万が一」の警戒心から、そんな禁止規制が敷かれることにもなりかねないからです。一人の不正、みんなの迷惑、というやつで、愉快犯だかただの低脳だか知らないが、迷惑この上ない。受験生諸君は、この事件の「犯人」がつかまったら、一発ずつ殴る権利があります。尤も、そんなことをしていたら、彼は死んでしまうでしょうが。

 とにかく、今は傍迷惑な馬鹿が少なくない。去年の受験生に、センター試験の際、後ろの受験生が数学の試験時間中ずっと「鉛筆ころがし」をやっていて、集中力を乱され、非常に困ったと言っている子がいました。要するに、その馬鹿は、鉛筆を転がしてマーク箇所を決めていたのでしょう。それに悩まされた男子生徒は、数学が得意だったのに、不似合いな点数しか取れなかったのですが、それはこのせいです。話を聞いて腹を立てた僕は、何で後ろを振り返って、「うるせえぞ、この馬鹿!」と怒鳴りつけてやらなかったのかと言いました。善良でおとなしい彼は、「そんな乱暴な…」という顔をして苦笑しましたが、僕なら百パーセントそうしています。相手が文句ありげな顔をすれば、「殺されたいのか」ぐらいは付け加えてしまうでしょう。

 そういうことがあったものだから、似たような傍迷惑な奴がいたら、手を上げて、試験監督の係員を呼び、「注意して下さい」と必ず言えと、今年は受験生たちにあらかじめ言いました。それがガラの悪い奴で、後でインネンを付けられたら、「自分の知り合いにはコワい人がいるので、その人に言いつける」と言えと教えたのです。実際、そういうことを逆恨みして脅すようなことをする卑劣な奴は、絶対にただではすませません。幸いなことに、そういうのには遭遇しなかったと全員が答えたので安堵したのですが、その種の傍迷惑は許容する必要はないので、即やめさせるべきなのですが、今回のこの事件のようなものは、その悪影響の大きさからして、はかり知れないものがあると言うべきでしょう。

 こういうのは要するにたんなるズルで、「入試制度に挑戦する愉快犯」といったご大層なものではありえませんが、ごくごく一部のこうした不心得者のために、「受験生を見たら不正を疑え」みたいになってしまうと困るので、大学当局には過剰な管理・監視に傾きすぎないように、お願いしておきたいと思います。

 「携帯は所持していてもいいが、電源を切って必ずカバンにしまっておくように」という注意だけにとどめて、違反者は罰すると申し渡すだけで十分でしょう。先にも述べたように、公共のサイトを使わなければ、携帯を使った“足がつかない”カンニングも可能です。このことにかぎらず、良心を捨てれば人間は何でもできる。が、だからといって規制を強化すればいいというものではないので、「やろうと思えばできるが、しない」という主体性を担保しておくことは大切なことです。でないと、やたらと窮屈で風通しの悪い社会になってしまう。「最低の人間」に合わせて、規制を敷くべきではないのです。僕はそんな社会に暮らしたくありません。

 ちなみに、偽計業務妨害罪の最高刑は「三年の懲役」です。刑法233条の後段「虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて人の業務を妨害した者」という規定に、今回の事件は該当すると警察は見ているのでしょう。この事件の受験生はこのうちの後ろの部分「偽計を用いて」に該当するわけですが、前の部分の「虚偽の風説を流布し」という規定に該当するような真似をインターネットを悪用してやっている手合いはたくさんいるので、それも立派な犯罪行為なのだということを、そういう人はこの際だからよく覚えておいた方がいいでしょう。いつまでもブタ箱行きを免れていると思うなよ、ということです。

 この事件の続報では、こちらはサンケイ新聞の記事ですが、 犯人ではないかと疑われている「都内の十八歳の男子高校生」が、ツィッターに、「京大の試験官は全然監視してないからカンニングしほうだいだったよ。さすがに周りの受験生がいるからあれだが、少なくともトイレにいけばカンニングとか余裕な状況だった」「今年の京大数学激易化だからカンニングとか無意味」「カンニングしたやつが悪いんじゃなく、今回のは完全に大学側が悪い」などという書き込みをしている由。これは他の人間が罪を別人になすりつけるために書いているのではなしに、本人だとしたらの話ですが、ずいぶんとナメた話なので、つかまえたらこってり油を絞ってやるといいと思います。二十歳未満は少年法が適用されるので、刑務所行きは免れるでしょうが、十六歳以上の場合、これは懲役に当たる犯罪なので、家裁によるいわゆる「逆送」も可能なケースです。その場合には「通常の刑事手続きに乗る」と刑法のテキストにはあるので、それで処断することもできるのだと、彼には教えてやった方がいいでしょう。

 それにしても、人が警戒・監視していなければ、カンニングをしても「される方が悪い」と平気でうそぶくモラルのなさは、全く呆れたものです。そういう社会性のかけらもない利己的な感性の持主を野放しにすると、将来何をしでかすかわかったものではありません。「学校のお勉強と受験勉強さえしていれば他はどうでもいい」今の教育が生み出した出来損ないの典型と見ることができるので、「世の中、そんなに甘くはないよ」ということを思い知らせてやる必要があります。

 不届き者はきっちり厳正に処罰して、まともな子たちにはおかしなとばっちりが及ばないようにしてもらいたい。それが、今回の事件で僕が思うことです。
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